【報道】ポリオに二次感染した男性を救済 定期接種に生ワクチンの症例
興味深い報道がありました。
ポリオに二次感染した男性を救済 定期接種に生ワクチンの症例(共同通信)
https://news.yahoo.co.jp/articles/7b60c1a6ab047464814c5ddd78b2832b70d9ca01
報道の情報が断片的ですが、これは予防接種健康被害救済制度とは別の制度である「ポリオ生ワクチン2次感染対策事業」による救済認定と考えられます。
予防接種健康被害救済制度は、予防接種法に基づく予防接種(法定接種)による健康被害が対象です。
ワクチンの中でも、生ワクチンと呼ばれるタイプのものは、接種後に生ワクチン病原の感染症状を生じる場合があります。
それ自体は予防接種健康被害救済制度の対象範囲と考えられますが、問題は、生ワクチン病原の感染症状を生じた人からの2次感染を被った場合です。
2次感染を被った人は、予防接種を受けて罹患したのではないからです。
特にポリオ(急性灰白髄炎)は、乳幼児期の感染で、長期間後遺症が残ってしまう場合があります。
ポリオについては、2011年度まで生ワクチンが使われていました(2012年度から不活化ワクチンに切替)。
日本の予防接種の歴史上、ポリオの生ワクチンは、感染症に対して明確に「効いた」事例といってよいでしょう。
教科書的な理解では、1960年代初め頃にポリオの大流行があり、厚生省の感染症統計では、1959年には2917件、ピークの1960年には5606件にのぼっています。
1961年に旧ソ連を含む諸外国から生ワクチン1300万人分を緊急輸入し、接種。
その後1964年から国産生ワクチンの定期接種開始。
前同の感染症統計では、1961年2436件、1962年289件、1963年131件、1964年84件と、劇的に減少しています。
1960年代後半には10件前後まで減少し、感染例も多くが生ワクチン由来と考えられるとされる状態にまで至りました。
ただ。成功と成功体験は別のものです。
それだけ有効だったため、ポリオの感染機会がほぼ無くなってからも生ワクチンの予防接種を続けてしまった、という側面もあります。
ポリオの最後の国内感染例は昭和55年とされています。
ポリオ生ワクチンの使用中止は2011年度です。
最後の国内感染例から生ワクチンの使用中止まで、30年以上かかったことになります。
その間、稀とはいえ、ポリオ生ワクチン株の感染症状(ポリオワクチン関連麻痺(VAPP))のリスクを生じていたことになります。
それは同時に、2次感染もあったかもしれない、ということです。
ポリオ生ワクチン2次感染対策事業は、平成16年4月1日から施行されています。
今回の報道が、ポリオ生ワクチン2次感染対策事業の初めての認定事例なのか、以前にも認定事例があるのか、報道からは分かりませんでした。
少なくとも、厚生労働省Webサイトの「ポリオ生ワクチン2次感染者対策検討会」にあがっている審議結果は、報道された事例1件しかないようです。
・ポリオ生ワクチン2次感染者対策検討会
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-kenkou_128547_00006.html
ここからは、ポリオ生ワクチン2次感染対策事業の要点を整理します。
- 発症前おおむね半年以内に同居の家族、又は、濃厚に接触したと認められる親族その他の者がポリオ生ワクチンによる定期の予防接種を受けている。
- 発症前35日以内にポリオ生ワクチンの予防接種を受けていない。
- 発症前35日以内に野生株によるポリオ患者が発生している地域への渡航歴がない。
- 予防接種法上の定期接種としてポリオ生ワクチンの予防接種を受けた者からワクチン株のポリオウイルスに2次感染し、それにより疾病、障害の状態または死亡に至ったとして、厚生労働大臣が認定した。
- 上記の2次感染は、野生株のポリオによる発症者が最後に報告された年である昭和55年以降に感染したものに限る。
上記によれば、2次感染の原因となった被接種者がポリオを発症したことは、必ずしも要件とはされていません。
- 医療費・医療手当(疾病の場合)
- 特別手当(障害の場合)
- 死亡一時金・葬祭料(死亡の場合)
考え方として、任意接種の場合=医薬人副作用救済制度の救済給付額と同程度とされています。
- 被害当事者は、申請書と所定の添付書類を市町村に提出。
- 市町村は、予防接種健康被害調査委員会の設置及び調査を行い、調査報告書を添えて、関係書類一式を都道府県経由で厚生労働省に送付し、判定申出を行う。
- 厚生労働省は、ポリオ生ワクチン2次感染者対策検討会の設置及び意見聴取を行い、厚生労働大臣が判定を行う。
- 市町村は、厚生労働大臣の判定結果の通知により、認定されたときは給付を行う。
予防接種健康被害救済制度と類似しています。
事業主体は市町村、実質的な判断主体は厚生労働大臣、というズレがあることも同じといえます。
予防接種健康被害救済制度との相違点として、被害当事者が提出すべき書類がより複雑になっています。
- 診療録、受診証明書(疾病の場合)、障害の診断書(障害の場合)に加え、
- 2次感染の原因となった予防接種の被接種者の氏名及びその接種を受けた年月日を証する書類
- 請求者の上記被接種者との接触歴(同居・別居の別等)及び続柄を証する書類
- 上記において接触歴を別居とした場合、親族等に濃厚に接触したことを証する書類
ポリオの感染経路が主に糞口感染であること、被接種者が乳幼児期であること、から、同居家族間の2次感染が多いと想定されますが、別居の場合の濃厚接触の証明ということになるとかなり困難な課題になりそうです。
ポリオ生ワクチンが使用されていたのが2011年以前ということは、少なくとも15年以上前の出来事です。
昭和55年以降ということは、もっとも古ければ46年前です。
司法関係者の常識ですが、事実関係の証明は、昔になるほど証拠の確保が難しくなり、ハードルが高くなっていきます。
以上のとおり、制度上の要件や、申請時に提出が求められる書類を概観すると、本家の予防接種健康被害救済制度と比べても厳しい印象です。
報道された事例については記事以上の情報はないので推測になりますが、被害当事者・支援者のほか、市町村の職員や調査委員会など、関係者による相当の尽力があったものと推察されます。
とはいえ、本事業の要件をここまで厳しく設定すべきなのか、とは感じます。
特に、昭和55年以降の2次感染に限るべきなのか、という点です。
昭和55年以降は、ポリオ野生株の感染報告がなくなったということは、感染経路は生ワクチン由来しかないと考えることができます。
一方で、昭和55年以前も、地域的に見れば長期間感染報告がない地域は多いはずです。
そうした地域でも、感染経路は生ワクチン由来の可能性が非常に高いと考えるのが通常でしょう。
公衆衛生当局の間では、1960年代後半以降のポリオ感染報告はほとんどが生ワクチン由来と考えられていたのではなかったでしょうか。
本家の予防接種健康被害救済制度においては、「因果関係を否定できない場合も救済対象とする」という考え方がとられています。
そして、本事業は、予防接種健康被害救済制度の補完的な位置づけの救済制度と理解できます。
予防接種健康被害救済制度と同様の考え方によるのであれば、昭和55年以前の2次感染についても、2次感染の蓋然性が相当あるといえるのであれば救済対象にしてよいのではないか、と考えます。
もっとも、政策論となれば実態把握が前提になるところ、実際に2次感染の被害当事者がどの位おられるのか、非常に見えにくい場面でもあります。
本家の予防接種健康被害救済制度では、最近、ポストポリオ症候群など、昔のポリオ生ワクチン時代の健康被害の認定事例が見られます。
ポリオ生ワクチン由来の2次感染の問題についても、実際に被害当事者がおられた場合に迅速に救済手続につなげられるよう、関係者の認識向上と準備が大事なのかもしれません。
本記事が好転のきっかけになりましたら幸いです。
弁護士 圷悠樹
