予防接種健康被害救済制度Q&Aの追補その18(疾病・障害認定審査会の議事録の開示請求をする方法)
予防接種健康被害救済制度について、法的観点からのQ&Aを追加していきます。
特別の断りがない限り、新型コロナワクチンの予防接種とその健康被害を想定しています。
Q 救済制度の申請をしましたが、不支給決定を受けました。
決定書に書かれている理由が短すぎて、何が不支給の理由だったのか分かりません。
審査請求を考えていますが、もっと具体的な理由を知る方法はありませんか。
A 国側で審議をしている疾病・障害認定審査会の議事録の開示請求をすることができます。
開示請求をする方法は、次の2つがあります。
- 予防接種健康被害救済制度の申請者から、行政機関の保有する個人情報の開示請求をする方法
- 審査請求手続の中で、審理員に対し、行政不服審査法に基づく物件提出要求をするよう申し立てる方法
いずれを選択するかは、それぞれの状況判断となります。
概略、負担が少ない方を重視するなら(2)、イニシアチブをとることを重視するなら(1)、が適するといえます。
1 開示請求をする意義は何か
予防接種健康被害救済制度では、支給/不支給の決定をするのは市区町村ですが、厚生労働大臣の認定が必要とされます(予防接種法15条1項)。
疾病・障害認定審査会が諮問を受けて審議し、その意見をもとに厚生労働大臣の認定判断がなされます。
ここで重要なことは、疾病・障害認定審査会での具体的な審議内容は、処分庁である市区町村も、審査請求の審査庁となる都道府県も、知らない、知らされないということです。
市区町村には、厚生労働省から認定判断の通知が来ますが、通常A4で1枚程度の簡略なものです。
それに書かれていることは、申請者に交付される支給/不支給決定書の「理由」とほぼ同一です(多くの市区町村では、決定書に、厚生労働省からの通知を添付しているようです)。
これは自治体側にとっても困ったことです。
何が困るかというと、例えば神奈川県予防接種研究会は、以下のような報告書を出しています。
・予防接種制度における健康被害救済制度のあり方について 最終報告書 平成28年11月 神奈川県予防接種研究会
予防接種制度における健康被害救済制度のあり方について 最終報告書 平成28年11月 神奈川県予防接種研究会
- 提言1 健康被害の救済認定における情報公開
- 【問題点】認定基準が示されていないため、審査に時間を要している。また、不認定となった者に対し、十分な説明が出来ていない。
- 【対 応】国が認定した基準を示し、審査経過等も含めて公開する(個人情報は除く)
つまり、自治体側から見ても、「認定基準が分からない」「国側の審査経過が分からない」「不認定の場合に十分な説明ができていない」という状態なのです。
このように、市区町村や都道府県にとっても「認定基準が分からない」「国側の審査経過が分からない」という状態のまま、不支給決定に対する審査請求を進めていくと、どうなるか。
処分庁である市区町村も、不支給決定の実質的な理由を把握できず、「国がそう言っているから」としかいえません。
それ以上に問題なのは、審査庁つまり判断者である都道府県までが、「国がそう言っているから」という姿勢になってしまうおそれがあることです。
審査請求を機能させるには、不支給決定の実質的な理由、具体的な審査経過・審議内容を、批判的な検討の対象にする必要があります。
特に、新型コロナワクチンについては、救済制度の申請の急増により、審査会の1回の会議あたりの審査件数が100件を超えることも珍しくないため、審議内容の検証の必要性は高いというべきでしょう。
これが、疾病・障害認定審査会の議事録の開示請求をする意義と考えられます。
2 行政機関の保有する個人情報の開示請求による方法
この方法は、法的には「行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律に基づく開示請求」というものです。
請求先は厚生労働省です。
開示請求書の書式、説明等は、Web上で公開されています。
・請求書等様式(厚生労働省Webサイト)
https://www.mhlw.go.jp/jouhou/hogo06/index.html
・開示・訂正・利用停止請求の流れ(厚生労働省Webサイト)
https://www.mhlw.go.jp/jouhou/hogo05/index.html
請求書の書き方のポイントは、
「1.開示を請求する保有個人情報」欄に、特定するための具体的情報をできるだけ書くこと
です。
(資料として、支給/不支給決定に関する文書(文書番号:○○)の写しを添付)
他の事項については、書式の記載欄及び説明書きをよく読んでください。
手数料(収入印紙)の金額、本人確認書類の写しを添付すること、郵送による請求の場合は住民票を添付すること、などがあります。
この方法のメリットは、イニシアチブをとって実行できることです。
また、審査請求前でも可能です。
もっとも、審査請求ができる期間は3ヶ月ですので、審査請求前に開示請求をした場合でも、審査請求書の作成・提出までには間に合わない可能性があります。
厚生労働省全体では、⑴の保有個人情報開示請求に対する決定は、通常30日以内に行うとしているようです(標準処理期間。厚労省Webサイトの「開示・訂正・利用停止請求の流れ」を参照)。
ただし、実際には、開示決定までに30日を超える期間がかかる可能性があります。
また、開示決定から、開示された文書を受領するまでにも1週間程度は見ておいた方がよいでしょう。
3 行政不服審査法に基づく物件提出要求をするよう申し立てる方法
この方法は、法的には「行政不服審査法に基づく審理員による物件提出要求の申立て、または審理員の職権による物件提出要求の要請」と位置づけることができます。
審査請求をすることが前提になります。
審査請求の手続において、審査庁側で手続を主宰する役割を担うのが「審理員」です。
審理員は、関係者に対する「物件提出要求」、つまり書類その他の物件の所持人に対してその提出を求める権限があります(行政不服審査法33条)。
審査請求人は、審理員から物件提出要求を行うよう申し立てることができます。
審理員は、申立てによらなくても、職権により物件提出要求を行うこともできます。
審査請求人側の対応としては、審理員と協議し、物件提出要求により疾病・障害認定審査会の議事録の取り寄せを希望することを伝えることになります。
審査請求人からの申立てをするか、審理員が職権で対応するかは、審理員と調整すればよいでしょう。
物件提出要求の結果取り寄せた文書について、審査請求人は、その閲覧または写しの交付を請求することができます(行政不服審査法38条1項)。
この方法のメリットは、審査請求人にとって負担感が少ないことです。
ただし、物件提出要求を行うかどうかは、審理員側の判断となりますので、必ずしも審査請求人側にイニシアチブはありません。
また、仮に審理員が消極的だった場合でも、⑴の開示請求に切り替えることができます。
4 その他
ご相談に際して、「本当に開示されるのか?」という疑問をうかがうことがあります。
私自身それほど同種事案の取扱経験が多いわけではありませんが、疾病・障害認定審査会の議事録の開示についてはあまり心配していません。
もちろん非開示情報として黒塗りにされる箇所もありますが(例えば委員名・事務局名や他の申請者の案件部分)、審議内容を検証するために必要な範囲の情報は出てくる場合がほとんどだろうと思います。
仮に、⑴の保有個人情報開示請求の結果が審査請求との関係で不十分に感じた場合、審理員と協議して、審理員からの物件提出要求により非開示部分を含めた開示を求めてもらう、といった対応もありうるかも知れません。
関連する注意点として、「行政機関の保有する個人情報の開示請求(保有個人情報開示請求)」と「公文書開示請求」を混同しないよう注意すること、があります。
間違えて公文書開示請求をしてしまうと、例え申請者自身の個人情報であっても開示対象にならないので、肝心の審議内容が非開示になってしまいます。
この2つは紛らわしく、取り違えやすいのでご注意ください。
本記事が好転のきっかけになりましたら幸いです。
弁護士 圷 悠樹