予防接種健康被害救済制度Q&Aの追補・番外 因果関係補論

疾病・障害認定審査会における因果関係の認定について、公式には、以下の方針で審査が行われている、と説明されています(本Q&A追補その8参照)。

…同分科会においては、申請資料に基づき、個々の事例ごとに
  • 症状の発生が医学的な合理性を有すること
  • 時間的密接性があること
  • 他の原因によるものと考える合理性がないこと
等について、医学的見地等から慎重な検討が行われている。…

…「厳密な医学的な因果関係までは必要とせず、接種後の症状が予防接種によって起こることを否定できない場合も対象とする」という方針で審査が行われている。…

審査請求や取消訴訟の場面でも、これを前提に主張を組み立てることになります。

しかし、私自身が、このように公式化された方針に対して「腹落ち」をしているわけではありません。
疾病・障害認定審査会の認定判断の実態というか、彼らの思考過程を捉え切れていないように思えてならないのです。

では、後者はどのようなものなのか、というのが、本記事のテーマです。

それを探る手がかりとして、今回は、以下の3つの文献を紹介します。

  1. 国立予防衛生研究所学友会編『日本のワクチン(改訂第2版)』1976年・丸善 所収
    木村三生夫「予防接種副反応とその対策」同書431頁以下

    ・いつでも読める 感染研・学友会出版書籍(電子版)(国立感染症研究所Webサイト)
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/component/content/article/2324-publication/gakuyukai-press/5493-gakuyukai-press.html
  2. 木村三生夫・平山宗宏編著『予防接種の手びき(第4版)』1985年・近代出版 所収
    「予防接種後の健康被害」同書53頁以下
    (国立国会図書館デジタルコレクションで登録すればオンライン閲覧可能)
  3. 木村三生夫・平山宗宏・堺春美著『予防接種の手びき(第7版)』1997年・近代出版 所収
     「ワクチンの副反応と因果関係」同書50頁以下

木村三生夫先生は、小児科医で、疾病・障害認定審査会の前身組織の委員として予防接種健康被害救済制度の被害認定に関与していたそうです。
東京予防接種禍訴訟では国側の証人として証言された方です。

なお、『予防接種の手びき』は、初版が1975年で、通番での版は2014年の第14版まで、その後は2018~2019年版、2020~2021年版、2022~2023年版、直近の2024年~2025年版までが出版されています。
木村三生夫先生ご自身は2010年に逝去なさっており、木村先生が編著者としてあがっているのは第14版までです。

上記の3つはいずれも古い資料ですが、疾病・障害認定審査会の考え方の実態を推知するのに、貴重な手がかりと考えられます。

1 - 古典的な副反応・健康被害の分類 –

(木村三生夫「予防接種副反応とその対策」、国立予防衛生研究所学友会編『日本のワクチン(改訂第2版)』431頁以下)

『日本のワクチン(改訂2版)』431頁には、以下のように、予防接種の副反応・健康被害の分類表が示されています。


 表27.1 予防接種副反応、事故の分類    
  1. ワクチン製造、管理試験の過誤による事故

    (※筆者注:過去の著名な例として、1930年リューベックBCG事件、1948年京都ジフテリア事件、1955年Cutter社ポリオワクチン事件など)

  2. ワクチン取扱いの過誤による事故
    1. 接種液の間違い
    2. 細菌などによる汚染
  3. 接種による副反応
    1. 毒素様反応 発熱、局所反応などの通常反応、百日咳ワクチン脳症など
    2. アレルギー性反応
      1. 即時型反応:ショック、卵アレルギーなど
      2. 遅延型反応:発疹、再種痘における皮膚反応
      3. 自己免疫様反応:不活化ワクチンによる脳炎、紫斑病
      4. 接種による感作の成立:異型麻疹、破傷風トキソイド反覆接種による反応
    3. 生ワクチン病原の感染症状
      1. 通常反応:生麻疹ワクチン接種後の反応、種痘またはBCG接種による局所反応
      2. 異常反応:種痘皮膚合併症、BCG全身散布、生ポリオワクチン後の麻痺
      3. 接種後脳炎
      4. 接触感染:種痘接触感染、生ポリオワクチン接触感染
      5. 胎児感染:種痘、風疹ワクチンウイルスの感染
  4. 他疾患との関連
    1. 既存疾患の悪化、誘発 ぜんそく、けいれんの誘発など
    2. 潜在疾患の顕性化、発見 てんかんの初発、脳性麻痺の発見
    3. 偶発疾患 乳児突然死、諸種疾病の同時発症
  5. 間接的影響 DPTワクチン接種後のポリオ誘発

本文ではそれぞれの項目の説明がなされていますが、本記事では省略します。関心がありましたら原文をご覧になってみてください。

この分類は、現在でもかなり通用するのではないかと思います。
もちろん、そのままではなく、応用が必要な部分がありますが。

自己免疫様反応としてあがっている脳炎は、現在でいえばADEM(急性散在性脳脊髄炎)などでしょう。
紫斑病は、現在でいえば血小板減少性紫斑病やIGA血管炎(アレルギー性紫斑病)でしょうか。

ギラン・バレー症候群などの末梢神経系の障害も、自己免疫様反応に入るのではないかと思います。
心筋炎・心膜炎は、医学的な発生機序の捉え方を承知していないので推測ですが、副反応疑い報告制度の目安時間(28日)からは、遅延型アレルギーか自己免疫様反応に入るのではないかと思います。

アレルギーによる神経系の疾患や自己免疫疾患は、伝統的なワクチンの副反応のパターンの中に位置づけられそうです。
これに対して、新型コロナワクチンの健康被害では、脳梗塞など血管系の疾患の被害認定の多さが特徴的ですが、この位置づけが問題です。
既存疾患、潜在疾患、偶発疾患の分類になるのかもしれません。後述のとおり、これらも因果関係が認定される可能性があります。
ただ、認定事例の多さを考えると、そうとばかりも言い切れません。
アレルギー性反応などの本来の副反応としての説明もありうるのかも知れませんが、まだ情報収集が必要な段階です。

2 - 紛れ込み論と因果関係認定の境界 –

(「予防接種後の健康被害」、木村三生夫・平山宗宏編著『予防接種の手びき(第4版)』53頁以下)

『予防接種の手びき(第4版)』は、1985年の出版で、1980年の第3版から5年経過しています。
前の版からの記述の変わり方が大きく、予防接種との因果関係の考え方についても大変興味深い内容があります。

本書では、いわゆる紛れ込み論(「…ここでいう予防接種事故とは、ワクチンそのものの副反応に、偶発の、すなわちたまたま時を同じくして発病した、あるいは発見された疾患を加えたものである。…」本書53頁)のカラーが強くなっています。
一方で、予防接種に対して悲観的な記述もあります。
予防接種を行う限り「事故」はゼロにできない。早期接種を必要とする理由のない限り、幼若乳幼児への接種はやめるほうが得策。」と、「予防接種の手びき」に書いているのです。
理屈としての紛れ込み論と、救済制度の審査にあがってくる悲惨な健康被害の実態の間で、揺れている印象があります。

本書54頁には、発生要因からの分類表が示されています。


 表6 いわゆる予防接種事故の発生要因
  1. ワクチンの直接作用 ショック、種痘合併症、ポリオ生ワク後の麻痺など
    因果関係:真のワクチンによる副反応
  2. 潜在疾患の顕性化(ひきがね) 種痘後のてんかんなど?
    因果関係の判定は困難
  3. 既存、あるいは偶発疾患の悪化 種痘後発熱時期の髄膜炎など
    因果関係の判定は困難
  4. 既存疾患の発見 出生時よりの脳性麻痺に予防接種後気付くなど
    因果関係はないが、1.2.3.との鑑別は困難なことが多い。実際上、混入は避けられない。
  5. ワクチンとは全く無関係な偶発疾患 種々の急性感染症、急死など
    因果関係はないが、1.2.3.との鑑別は困難なことが多い。実際上、混入は避けられない。
    (注)救済措置の対象としては、因果関係の疑わしい例までとらざるをえないことがある。
    予防接種を行う限り「事故」はゼロにできぬ。疫学上早期接種を必要とする理由のない限り、幼若乳幼児への接種はやめるほうが得策
本書54頁

本文献では、潜在疾患、既存疾患、偶発疾患でも、因果関係を認定しうる、という趣旨の記述があることに驚かされます。

 (既存疾患、あるいは偶発疾患の悪化の説明で)
 …たとえば、種痘を受けて熱のでる時期は、体力が落ちていたり、他の病気に対する抵抗力が落ちているかもしれない。
 その時期にたまたま肺炎や細菌性髄膜炎にかかり、悪化して命を失ってしまったというケースである。
 この場合には種痘をしていなかったら、体力が落ちておらず、命までとられずに治ったかもしれないと悔やみが残りうる。
 そこで予防接種との因果関係がゼロではなかったということで、これも救済の対象として考慮されてきた。…

(本書55頁)

これは、偶発疾患であって真の副反応ではないといいつつ、救済すべきと感じるならかなりアバウトなレベルでも因果関係を認めてしまう、という話に思えます。
判断者の属人性の影響も大きくなります。
現在の疾病・障害認定審査会の認定で、同じような判断がされているかどうかは分かりません。
分かりませんが、彼らの考え方を推知する上で、かなり有益な内容でもあります。

まず、潜在疾患、既存疾患、偶発疾患として説明しがたいものは、ワクチンの直接作用、真の副反応ということになります。
代表例がアナフィラキシーショックでしょう(名前ではイメージしづらいので、発熱、頭痛、蕁麻疹、咳・呼吸困難、意識障害、血圧低下や不整脈・心停止などを生じさせる急性ショック症状、というべきではないかと思いますが)。
予防接種健康被害救済制度でも、アナフィラキシーについては、市町村段階での調査が不要とされていました。

これに限らず、潜在疾患、既存疾患、偶発疾患として説明しがたいものであれば、ワクチンの真の副反応として被害認定されやすい、と考えられます。
医療的な判断はできませんが、例えば、IGA腎症という疾患の被害認定事例があります(増悪や再発も含めると50件強あります)。
これを題材に考えてみましょう。
IGA腎症は、指定難病の1つで、進行は遅い(つまり、本来は急に発現する疾患ではない)、原因ははっきりしないが免疫系の異常に起因すると思われる、という疾患のようです。
なぜ予防接種後に急に症状があらわれ、あるいは増悪や再発したのか、急激な変化であれば潜在疾患、既存疾患、偶発疾患としては説明しがたい疾患と推測されます。
このような場合には、予防接種との因果関係についての病理学的な説明は不明であっても、被害認定しうる、ということは重要です。

次に、
  • 2(潜在疾患の顕性化)や3(既存疾患、偶発疾患の悪化)で書かれている「因果関係の判定は困難」
  • 4(既存疾患の発見)や5(純粋な偶発疾患)の「因果関係はないが、1.2.3.との鑑別は困難なことが多い。実際上、混入は避けられない。」
ということは、疾病・障害認定審査会の審査方針と考え合わせれば、「因果関係を否定できなければ、認定しうる」「因果関係を否定できない場合と区別できなければ、認定しうる」ということでもあります。

前記のとおり、疾病・障害認定審査会の審査方針では、

…「厳密な医学的な因果関係までは必要とせず、接種後の症状が予防接種によって起こることを否定できない場合も対象とする」という方針で審査が行われている。…

とされています。
「疑わしきは認定する」と言っているのです。
もちろん、常に認定できるということではなく、「真に、因果関係を否定できないといえる場合であれば」ということですが。

前述のとおり、本書には、種痘で体力や抵抗力が落ちている時期に、たまたま肺炎や細菌性髄膜炎にかかった、という場合に、種痘をしていなかったら体力や抵抗力が落ちておらず落命していなかったかもしれない、だから因果関係はゼロではない、という記述がありました。
木村先生は、このレベルでも、「因果関係を否定できない場合」にあたりうる、というのです。

一見、潜在疾患、既存疾患、偶発疾患と考えられる場合でも、場合によっては因果関係を認めうる、というのは、潜在的な射程が広い話です。
例えば、既存疾患の増悪や再発については、相当数の被害認定事例があります。
これらは、木村先生の上記の記述を念頭に置けば、理解しやすいでしょう。
予防接種によって体力や抵抗力が落ちている時期に、既存疾患の増悪や再発があった、予防接種をしていなかったら体力や抵抗力が落ちておらず増悪や再発はしなかったかもしれない、だから因果関係はゼロではない、という推論かもしれません。
潜在疾患や偶発疾患についても、同様の推論が成り立つかもしれません。

もっとも、判断の属人性が強くなるだろう、とはいわざるを得ません。
「因果関係を否定できない場合」のハードルを高くとるか、低くとるかによって判断が大きく変わってしまい得るのです。

そもそも、木村三生夫先生自身が、判断の属人性を指摘されています。
東京予防接種禍訴訟の木村先生の証言中、原告(健康被害者)側代理人弁護士の反対尋問です。

 …基本的によく分からないのは、証人は因果関係の肯定には非常に厳密に科学的にやられるのに、今の場合もそうですけれども、因果関係がないというほうについては、どうしてそんなふうに、簡単に、思いこみをされるんですか。…」

『日本裁判資料全集1 東京予防接種禍訴訟 上巻』信山社・2005年、940頁。山川洋一郎弁護士の反対尋問の質問

疾病・障害認定審査会の最近の認定の傾向では、明らかに否認率が上がっていますから、楽観的にはなれません。

3 - 因果関係の判定基準と4段階の判定結果 「否定しきれない」はどういう意味か –

(「ワクチンの副反応と因果関係」、木村三生夫・平山宗宏・堺春美著『予防接種の手びき(第7版)』50頁以下)

本書では、予防接種健康被害の因果関係の判定基準が示されています。
上述の疾病・障害認定審査会の「方針」と近似していますが、こちらの方が実際の思考過程に近いのではないかと思われます。


 表3 予防接種健康被害の因果関係

  1. 接種後、一定の期間に、一定の疾病が発症すること
  2. その発生機序について、現在の医学水準からみて妥当と考えられること
  3. 他の病因、あるいは疾病が明らかで、それによって、接種後の疾病が説明しうる場合は否定的
  4. 何らかの疾病を有する者、特殊な状態にある者については、接種後の副反応の増強あるいは、原疾患の増悪が明らかな場合は因果関係を考慮する

(本書57頁)

その説明として、

…接種してから発症するまでの時間的な関係とその発生機序が現在の医学水準からみて、可能性が考えうることが基本である。
 ウイルス、細菌検査などにより、ワクチンとの関連を支持するデータが得られれば因果関係は確実さをますが、他の原因が明らかになり、それによって病状が説明しうる場合は、否定的となる。
 他の疾患が合併したり、同時発症した場合には難しいが、もとの病気が接種によって明らかに増悪した場合には、因果関係を考慮することになろう。…

とされています。

「接種から発症までの時間的な関係」と「発生機序」が焦点とされています。
「即時型アレルギー/アナフィラキシー」「遅延型アレルギー(自己免疫様反応など)」「生ワクチン病原の感染症状」などの類型と、症状や時間的関係が整合するかどうか、という検討になりそうです。

また、因果関係の判定結果として4段階があるとされています。


 表4 因果関係の判定
 ① 因果関係確実
 ② 因果関係を否定できない
 ③ 因果関係を否定しきれない
 ④ 否定的
 …

(本書57頁)

その説明として、
…このうち、因果関係を考えるうえで妥当なのは①と②であるが、因果関係を決めかねる場合があり、疑わしきは救済するという立場から、③を救済対象とすることになろう。…
とされています。

つまり、疾病・障害認定審査会の審査方針では、①②③までが救済対象となります。
③の「因果関係を否定しきれない」という表現は、一見すると、否定したいが、というニュアンスを感じてしまいうるものです。
ただ、本書の記述によれば、これは、結論としては因果関係を認める、という判定結果を意味します。
疾病・障害認定審査会の委員の方たちにとっては、テクニカルタームの一種という意識なのかもしれません。

4 結語に代えて

あくまで私の主観的理解ですが、紛れ込み論は、もともとは、予防接種・ワクチンを擁護すると同時に健康被害の因果関係を認定するための高等話法(あるいは狡知、あるいは二枚舌)だったようにも感じられます。
木村三生夫先生についていえば、紛れ込み論に乗りきれていない印象もあります。

「早期接種を必要とする理由のない限り、幼若乳幼児への接種はやめた方が得策。」という言葉は、木村先生のいう真の副反応を深刻に捉えているのでなければ、出てこないはずです。
紛れ込み論と、被害実態との間で、揺れている印象があります。

全般的に、木村三生夫先生には、小児科医として予防接種を積極的に推進したいが、副反応・健康被害の検討もしないではおれないという、ある種のジレンマと、それを隠さない誠実さは感じとれます。
確かに、「因果関係を否定できなくなる」といった一見すると否定ありきの姿勢に思える表現もありますし、東京予防接種禍訴訟の証人尋問では原告弁護団から厳しく追求されてもいます。
ただ、予防接種の副反応・健康被害という、おそらく医療の専門家としては皆が引き受けたがらないであろうテーマを引き受けた人だった、ともいえます。
『予防接種の手びき』は、木村三生夫先生が編著者から外れた2018~2019年版から、副反応・健康被害についての記述が大きく減ってしまっています。

木村先生のお考えには、いいたいことは色々出てきますが、これも吸収すべき「先人の蓄積」のひとつではないでしょうか。

弁護士 圷悠樹