【書評】森智幸・佐々木宏之『弁護士と銀行員による経営者保証ガイドラインの基本と実務』
著者:森智幸(弁護士)・佐々木宏之(北海道銀行)
『弁護士と銀行員による経営者保証ガイドラインの基本と実務』日本加除出版・2024年
購入して一読しました。
森弁護士は、この分野で定評のある方です。
佐々木さんも、銀行サイドでこの分野を長く検討されてきた方とのことです。読んでいて納得感があります。
弁護士から見たこの分野の類書は、
『実践 経営者保証ガイドライン』青林書院・初版は2020年、補訂版は2023年
などがあります。
こちらは弁護士から見て大変実践的な内容で、私自身も担当ケースでこれを参照して進めました。
- 「ガイドラインの手続がよく分からないから弁護士が使わない/金融機関が非協力的」ということを減らしたい明確な意図を感じる。
- 最大の売りは、銀行側からの視点によるコメント部分。対象債権者となる銀行の間で足並みをそろえさせるための説得材料をたくさん用意してくれている。
前者について、佐々木さんの執筆箇所で特に印象に残った箇所を引用します。
(支援専門家についての記述より)
(本書243頁)
ガイドラインによらない通常の保証債務整理手続では、保証人の代理人弁護士と金融機関は対立関係にあることが多く、その原因は、弁護士・金融機関とも、相手の思考形態や独自のスタンスが理解できていないことにありました。
弁護士側は、「事案についての予測可能性が低い」という相互理解醸成の阻害要因を抱え、金融機関側も、通常、弁護士は金融機関にとって「脅威」であると捉えていることが多いという相互理解醸成の阻害要因を抱えていました。
ガイドラインは「支援専門家」の役割を明確にすることで、相互理解醸成の阻害要因の解消を図り、ガイドラインの規律を実践することで、支援専門家を金融機関と保証人のWin-Winの解決を図るためのパートナーと捉えることを可能にしています。
そのために最も重要なのは、金融機関側は支援専門家の予測可能性を高める努力を行うこと、支援専門家側は金融機関の文化とルールを知ることです。
私も、金融機関の方から「内部では、弁護士からの破産の受任通知を「不幸の手紙」といっている。」と聞いたことがあります。
上記の指摘には非常に説得力を感じます。
後者についても、佐々木さんは、銀行サイドの視点ならではの材料をいろいろ提供してくれています。
(残存資産についての記述より)
(本書197頁)
ガイドラインに基づく保証債務手続は、私的整理である以上、保証人を破産並みの過酷な状況に追い込むことは許されないことから、破産法とガイドラインの「拡張自由財産」の範囲に差を設けても、「経済合理性」を損なうことはないと考えられます。
したがって、仮にインセンティブが見込まれない場合であっても、保証人の再起に寄与するため、できる限り柔軟に拡張自由財産を認めるべきです。
(インセンティブ資産についての記述より)
(本書204頁)
このような例示(※ガイドラインでのインセンティブ資産の例示)がされている趣旨は、対象債権者がなるべくインセンティブ資産を認めやすくすることであって、インセンティブ資産の種類を限定することではありません。
むしろ、なるべく残存資産を認めたくないという対象債権者に対して、「最低限この位の残存資産を認めよ」というプレッシャーを与えるための”目安”であると解されます(残存資産を認めたがらない対象債権者への「牽制」を目的とする”目安”を、残存資産を減らすために使用するのは本末転倒です。)。
対象債権者となる銀行の間での協調に苦慮されてきた経験がうかがえますね。
本書のタイトルは「基本と実務」と銘打っていますが、「弁護士が金融機関と信頼関係を築くためのファーストチョイス」というに値する書籍だと思います。
過去の担当事案の振り返り、改善点の気付きとしても、とても有益でした。
弁護士 圷悠樹