予防接種健康被害救済制度Q&Aの追補その20 審査請求をするとき、市町村の予防接種健康被害調査委員会の議事録には意味があるか?

予防接種健康被害救済制度について、法的観点からのQ&Aを追加していきます。
特別の断りがない限り、新型コロナワクチンの予防接種とその健康被害を想定しています。

Q 予防接種健康被害救済制度の申請に対して不支給決定がされたので、審査請求を考えています。
市町村の予防接種健康被害調査委員会の議事録の開示請求をする意味はありますか?

A 内容次第なので、実際に開示を受けてみないと判断できないのですが、意味がある可能性はあります。
被害者側に好意的な意見が出ている可能性があり、その場合には審査請求の理由として援用できるからです。
なお、入手方法は、開示請求をする以外に、審査請求手続開始後に処分庁から資料として提出を受ける方法もあります。

以下、因果関係が争点の場合を想定します。

予防接種健康被害救済制度の手続では、以下のように、複数の専門家の意見を得たうえで、判断がなされます。
  1. 市町村の予防接種健康被害調査委員会の調査・審議・意見
  2. 国の疾病・障害認定審査会の審議・意見
  3. 厚生労働大臣の判定
これに対応して、一般的には以下の文書が存在します。
  1. 市町村の予防接種健康被害調査委員会の議事録・報告書等
  2. 国の疾病・障害認定審査会の議事録・審査表
  3. 厚生労働大臣が市町村にあてた認定結果通知書

これらは、不支給決定に対する審査請求をする場合に、その資料とすることができます。

不支給決定だった場合、国の疾病・障害認定審査会は「否認」の意見である可能性が非常に高いです(後述のとおり、稀ですが審査会内で意見が割れている場合もあります)。
一方、不支給決定だった場合でも、市町村の予防接種健康被害調査委員会も「否認」の意見であるとは限りません。
市町村の予防接種健康被害調査委員会が、疾病・障害認定審査会の意見や国の結論とは違って被害者救済寄りの意見を出しているというケースは、複数知っています。

いくつかのパターンがありますので、整理してみます。

【パターン1】
  1. 市町村の調査委員会が「否認」の意見
  2. 国の疾病・障害認定審査会が「否認」の意見
  3. 厚生労働大臣が「否認」の判定
⇒この場合、救済制度の審議経過の中には好意的な意見がないので、審査請求をする場合、独自に協力医の意見を求める必要性が特に高い状況となります。
【パターン2】
  1. 市町村の調査委員会が「因果関係を否定できない」または「因果関係を否定しきれない」の意見(=認定相当の意見)
  2. 国の疾病・障害認定審査会が「否認」の意見
  3. 厚生労働大臣が「否認」の判定
⇒この場合、市町村の予防接種健康被害調査委員会の意見を、審査請求の理由の1つとして援用することができます。
【パターン3】(※レアケースだと思いますが、実際にあります)
  1. 市町村の調査委員会が「因果関係を否定できない」または「因果関係を否定しきれない」の意見(=認定相当の意見)
  2. 国の疾病・障害認定審査会の担当委員2名の意見が「否定できない/否定しきれない」と「否認」で割れていて、一致しない
  3. 厚生労働大臣が「否認」の判定
⇒この場合、パターン2と同様、市町村の予防接種健康被害調査委員会の意見と、疾病・障害認定審査会の担当委員の意見のうち好意的なものを、審査請求の理由の1つとして援用することができます。

なお、各議事録を読む際の注意点があります。
「因果関係を否定できない」または「因果関係を否定しきれない」という表現は、救済制度においては「認定相当」の意味と理解してよいでしょう(過去記事:予防接種健康被害救済制度Q&Aの追補・番外 因果関係補論 の3項を参照)。
これに対して、「因果関係を完全には否定はできないが…」という表現の場合、上記の「認定相当」の意味で使われているのではない可能性があります。
これは日常言語ではなく技術的言語の領域なので、用語・用法をきちんと明文のルールにしてもらいたいところです。

市町村の予防接種健康被害調査委員会の議事録・報告書は、審査請求手続の開始後に、市町村の弁明書とともに資料として提出される場合が多いと思います。
より早期に入手するには、市町村への保有個人情報の開示請求をする方法があります。

一方、国の疾病・障害認定審査会の議事録等は、積極的に開示請求や物件提出要求の申出などのアクションをとる必要があるので、注意が必要です。

もし、審査請求ができる期間があと1ヶ月程度しか残っていないのであれば、各議事録の入手は期間内に間に合わない可能性が高いので、審査請求書の作成・提出を優先するべきです。
一方、審査請求ができる期間が3ヶ月近く残っているのであれば、市町村の予防接種健康被害調査委員会や国の疾病・障害認定審査会の議事録等の開示請求をしておいた方がよいでしょう。
内容次第では、審査請求をする際の材料になるかもしれません。

本記事が好転のきっかけになりましたら幸いです。

弁護士 圷 悠樹