予防接種健康被害救済制度Q&Aの追補その4(副反応疑い報告を本人から出せるか)

予防接種健康被害救済制度についての私家版Q&Aでは、公表資料から、主に制度の現状の整理をしました。
本記事では、弁護士として、法的観点からのQ&Aを追加していきます。
特別の断りがない限り、新型コロナワクチンの予防接種とその健康被害を想定しています。

Q 接種後の副反応疑いの報告を、本人からすることはできますか?

A 可能と考えられます。

以下のとおり、予防接種を受けた本人(未成年の場合はその保護者)から、副反応と疑われる症状の報告をする制度があります。
提出先は予防接種を実施した市町村です。

予防接種法に基づく医師等の報告のお願い

>被接種者または保護者の方は、定期の予防接種後に発生した健康被害について、必要に応じて、市町村に報告する制度(報告様式:以下リンク先)があります。詳しくはお住まいの市町村にご相談ください。

予防接種後に発生した症状に関する報告書 (保護者報告用)(厚生労働省)

本回答については、多少の留保があります。
上記の本人・保護者からの報告制度については、法律上の直接的な根拠規定が見つかりませんでした(行政側の内部的な通知等があるのかもしれませんが、公開されているものは見つかりませんでした)。

あえて根拠となりそうな規定を探せば、厚生労働大臣が予防接種の適正実施のために行う調査(予防接種法13条4項)として、市町村の協力を得て実施している、という位置づけかもしれません。

※法律上の根拠規定がある報告制度は、
  1. 予防接種法上の副反応疑い報告制度(報告者:病院開設者・医師など)
  2. 薬機法上の副作用等報告制度(報告者:医薬品製造販売業者、薬局開設者・薬剤師、病院開設者・医師などの医薬関係者)
がありますが、被接種者本人や保護者は含まれていません。
厚生労働省のWebサイトでは、上記引用のとおり、「定期の予防接種」後に発生した健康被害について、と書かれています。

実は、予防接種法には、「定期の予防接種(定期接種)」「臨時に行う予防接種(臨時接種)」といった類型があり、令和6年3月末までの新型コロナワクチンの公費での予防接種は、定期接種ではなく臨時接種(より正しくは特例臨時接種)でした。(ちなみに、令和6年4月1日以降は、新型コロナワクチンの「臨時接種/特例臨時接種」の扱いはなくなり、対象者のみ「定期接種」、それ以外は自費の任意接種、となります)

そのため、厚生労働省Webサイトの「定期の予防接種」との表現からは、新型コロナワクチン接種後の副反応疑い症状が本人・保護者からの報告制度の対象に「ならない」と解釈する余地もあります。

ただ、現在、予防接種後の副反応疑いのケースは、新型コロナワクチンの場面が大多数と考えられます(他のワクチンと比べた副反応の発生頻度を脇に置いても、短期間に圧倒的に多くの接種が集中していますから、副反応疑いも集中するでしょう)。

その状況でも、厚生労働省の上記の説明には、これまでの新型コロナワクチンの予防接種は定期接種ではなく特例臨時接種だから…といった注意書きはありません。

そして、上記の厚生労働省Webサイトの説明文は、多くの地方自治体にそのまま転載されています。
一般の市民の方が見れば、新型コロナワクチンの接種の場合もこの報告制度の対象、と考える可能性が高いでしょう。
(法律上も、定期の予防接種「等」と書いてあれば臨時接種も含む、つまり「等」の有無で違う、という、非常に煩瑣な技術的事項です。一般の方に判別を求めるのは無理難題というものです。)

それに加えて、予防接種の適正実施のための調査活動としての報告制度という位置づけとすれば「臨時接種」を対象外にする理由も考えづらいこと、も考慮すると、新型コロナワクチンの接種を公費で受けた場合であればこの報告制度の対象と見てよい(少なくとも、そのように判断して行動してよい)と考えます。

もっとも、法律上は、予防接種後の副反応疑い報告は医師または病院がするルートが本流です。報告書の内容もそちらの方がはるかに詳細です。
また、副反応疑いの報告と、予防接種健康被害救済制度(例えば医療費の補償)は、関連はありますが基本的に別の手続です。

予防接種健康被害救済制度の請求には医師の先生の協力が必要となるので、それを視野に入れればどこかの時点で医師の先生を見つけることが必要になることにも、ご留意ください。

弁護士 圷悠樹