予防接種健康被害救済制度Q&Aの追補その9(審査請求書の書き方[因果関係が争点の場合])
予防接種健康被害救済制度についての私家版Q&Aでは、公表資料から、主に制度の現状の整理をしました。
本記事では、弁護士として、法的観点からのQ&Aを追加していきます。
特別の断りがない限り、新型コロナワクチンの予防接種とその健康被害を想定しています。
Q 救済給付の請求をしましたが不支給決定になりました。審査請求をしようと思いますが、審査請求書はどのように書けばよいでしょうか。
A 個別の事情に即した検討が必要なので、できれば弁護士に相談していただきながらご検討いただくのがよいのですが、審査請求について情報を必要とする方がおそらく多くおられますので、審査請求書の書き方のサンプルを掲載します。
もっとも、多くの場合、サンプルどおりに書くことは難しいと思います。
後で述べるとおり、審査請求書を書く段階では、否認理由の詳細などの情報が不足したままで書かなければなりません。
審査請求の審理が始まってから、否認理由の詳細の把握、協力医の先生の意見の補充、鑑定等の検討、などを経て、審査請求の手続の中で主張立証を整えていく必要があります。
1 直近の疾病・障害認定審査会の審査状況
予防接種健康被害救済制度の実態として、審査請求にかかり得るケース、つまり不支給決定となるケースが相当数発生しています。
例として、令和6年7月中の、疾病・障害認定審査会 (感染症・予防接種審査分科会新型コロナウイルス感染症予防接種健康被害審査部会)の審議結果をみてみましょう。
- 7月5日付 感染症・予防接種審査分科会新型コロナウイルス感染症予防接種健康被害審査第一部会 第19回審議結果
認定63 否認59 保留2 - 7月11日付 感染症・予防接種審査分科会新型コロナウイルス感染症予防接種健康被害審査第三部会 第14回審議結果
認定53 否認51 保留2 - 7月25日付 感染症・予防接種審査分科会 第173回審議結果(新型コロナワクチン分)
認定24 否認33 保留0 - 7月31日付 感染症・予防接種審査分科会新型コロナウイルス感染症予防接種健康被害審査第二部会 第19回審議結果
認定73 否認32 保留0 - 合計:388件(認定+否認の数。保留を含めず) うち認定213、否認175
⇒認定率約55%、否認率約45%
当初からの全審議結果の平均と比べて、明らかに認定率の低下・否認率の上昇が見られます。
単純に件数で見ても、令和6年7月の1ヶ月間に175件の否認事例が発生しています。
これらは、今後厚生労働大臣の認定判断を経て、市町村長の不支給決定となる見込みです。
救済給付の請求のうち、医療費・医療手当の請求が多くを占めますが、同類型の給付水準を考えると、不支給決定となっても弁護士への依頼を躊躇されてしまう方も多いのではないかと思います。
ただ、それにより多くの方が審査請求を断念なされているとすれば健全とは思えませんし、これはまさに「司法過疎分野」なのではないか、という感覚もあります。
審査請求について少しでも検討材料を提供するため、審査請求の書き方サンプルを提示することにしました。
2 審査請求書の書き方(サンプル)
医療費・医療手当の請求で、因果関係が争点である場合を想定して、審査請求書の書き方のサンプルを提示します。
以下の書き方サンプルは、そのとおりに書くことで結果を保障するものではありません。
どちらかというと、審査請求のハードルを下げることを目指した最大公約数的なもので、個別事案に対する最善を目指したものではありません。
また、争点が因果関係以外にある場合(「障害の状態」の該当性、生計同一性要件など)、審査請求書の書き方は大きく異なってきます。
争点が因果関係である場合も、具体的な否認理由が何か、によって、本来は個別のケースごとに具体的な事情を検討する必要があります。
なお、一般的な審査請求書の様式・記載例は、末尾に掲げた「行政不服審査法 事務取扱ガイドライン〔様式編〕」をご参照ください。
審査請求書をご自身で書けそうかどうか、審査請求手続にご自身で対応することができそうかどうか、の見極めに役立てていただけましたら幸いです。
3 補足説明等
おそらく、サンプルのとおりに綺麗に書くことは難しい場合が多いと思います。
まず、不支給決定(否認)の具体的な理由を把握するには、疾病・障害認定審査会の議事録を取り寄せる必要があります。
言い換えると、疾病・障害認定審査会の議事録取り寄せ前には、具体的な理由が分かりません。
- 健康被害者本人から、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律に基づき、本人の個人情報の開示請求として行う
- 審査請求手続開始後に、審査庁(審理員)から、行政不服審査法に基づき、審理員の権限としての物件提出要求として行う
実際の審査請求事例の多くでは、⑵の方法、つまり審査請求手続開始後に、審査庁(審理員)から厚生労働省に対して、疾病・障害認定審査会の議事録の該当箇所の提出を求め、提出を受けていると思われます。
⑴の方法は、審査請求期間が決定を知った日の翌日から3ヶ月しかなく、健康被害者本人からの開示請求は、様々な理由からハードルが高いと思われます。
これはつまり、「審査請求書を書く段階では、不支給決定(否認)の具体的な理由が明らかになっていない状態で書かなければならない可能性が高い」ということです。
また、仮に審査請求期間内に議事録の取り寄せができ、不支給決定(否認)の具体的な理由を把握できても、医学的専門家、つまり医師の先生にご検討いただくことも必要です。
3ヶ月という審査請求期間内に、そこまでする時間的余裕はないでしょうから、審査請求手続開始後にならざるを得ません。
審査請求手続開始後であれば、鑑定等の形で審査庁側が医師の意見を聴取することも想定されます。
医師の先生による専門的医学的な検討が審査請求手続開始後にならざるを得ない以上、審査請求書の段階で書ける内容は、ファイナルなものにはなり得ません。
審査請求手続を通じて、不支給決定(否認)の理由が誤りであることの根拠となる主張及び証拠を整えていくことになります。
この場面に限りませんが、審査請求が開始してからが本番、ということですね。
本記事が、不支給決定(否認)に対して健康被害者側が審査請求をするハードルを、少しでも下げることにつながりましたら幸いです。
弁護士 圷 悠樹
【参考】
・行政不服審査法 事務取扱ガイドライン〔様式編〕(総務省Webサイト)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000904364.pdf
(本文1~2ページに審査請求書の様式・記載例が掲載されています)
・行政不服審査法 事務取扱ガイドライン(総務省Webサイト)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000904363.pdf
・行政機関が保有する個人の情報を本人に対して開示する制度について(厚生労働省神奈川労働局Webサイト)
https://jsite.mhlw.go.jp/kanagawa-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/jouhou/jouhou4.html
(個人情報の開示請求の説明のほか、請求書書式・記載例のリンクが掲載されています)