予防接種健康被害救済制度Q&Aの追補その12(不支給決定後の再申請)

予防接種健康被害救済制度について、法的観点からのQ&Aを追加していきます。
特別の断りがない限り、新型コロナワクチンの予防接種とその健康被害を想定しています。

Q 不支給決定となった場合に、新たな資料を追加してもう一度救済制度への申請(再申請)をすることはできますか。

A 再申請をすることはできると考えられます。
ただし、状況判断として再申請という選択肢が適切かどうか、別途検討が必要とお考えください。
いちばん考えられるケースとしては、障害年金・障害児養育年金の類型で、時間の経過により状況が変化したため、その資料を追加して再申請するケースではないかと思います。

厚生労働省が各都道府県に配布した「予防接種健康被害救済業務 Q&A集」によると、審査請求と同時に追加資料を添付した再申請をすることは可能、との記述があります。

Q11-4
予防接種健康被害救済給付については、一度審査され処分がなされた案件であっても新たな追加資料を添付した上での「再申請」と当該処分に対する「審査請求」を同時に行うことができるか?

A11-4
再申請と行政不服審査法に基づく審査請求を同時に行うことは可能です。

出典:予防接種健康被害救済業務 Q&A集

・出典:予防接種健康被害救済業務 Q&A集(リンク先PDFの33頁以下がQ&A部分)
http://www.nagaoka-med.or.jp/nichii_mail_bunsho/nichii_mail_bunsho_2024/2024ken2_222.pdf
(厚生労働省Webサイト上ではQ&A部分が含まれる文書が見つからなかったので、Q&A部分を含む長岡市医師会のサイト掲載文書のリンクを掲示)

審査請求をする場面ですから、何らかの不支給決定がなされていて、それに対して審査請求をする、それとともに別途再申請もする、という場面が想定されます。
そして、審査請求と並行してであれば再申請できるが審査請求をしないまま再申請のみすることはできない、と考えるべき法的根拠はありませんから、審査請求の有無にかかわらず再申請はできると考えられます。

それにしても、厚労省はなぜわざわざ仕事を増やすような事項をQ&Aに掲示したのだろう、と感じたので、意図を推測してみます。

平成18年以降の運用では、審査請求にかかっても、それだけでは疾病・障害認定審査会の再審査は行われません(当事務所WebサイトのQ&A追補その6を参照)。
よって、審査請求で追加資料が提出されていても疾病・障害認定審査会が検討することはできません。
審査請求で不支給決定取消の裁決がなされれば、疾病・障害認定審査会は再審査をすることになりますが、裁決の結論に拘束されます(行政不服審査法52条)。

一方、審査請求と並行して再申請もなされれば、そこで提出された追加資料を、疾病・障害認定審査会が検討して審査・判断を示すことができます。
審査庁も結論がバラバラになるのを避けたいと考え、疾病・障害認定審査会の判断を待って審査会の判断に審査庁側が影響される可能性があります。

つまり、厚労省としては、審査請求になってもできるだけ国側(疾病・障害認定審査会と厚生労働大臣)が関与したい、関与する機会を確保したい、という意図ではないかと推測します。

もっとも、審査請求と並行して再申請もするというやり方が、被害者救済の観点から見てプラスになるのかならないのか、が問題です。
これについては評価できるだけの材料がまだありません。
少なくとも、現状では予防接種健康被害救済制度の申請から審査、決定までの期間が長期化していますから、審査請求と並行して再申請をすると審査請求の結論が遅くなるのではないか、という懸念はあります。
また、近時の疾病・障害認定審査会の審査における否認率の増加傾向も、指摘しておきたいと思います。

不支給決定に対する審査請求と同時に再申請をすべきか、ということについては、状況判断は別途必要、とお考えください。

もっとも、厚労省の意図とは別に、上記Q&Aの記述は、シンプルな再申請、つまり、過去に不支給決定となったものの、追加資料を準備して再申請をする、ということができるという裏付けになります。
こうした再申請がもっとも考えられるのは、障害の類型でしょう。
障害の類型は、他と異なり、被害状態が長期間残存する、という性格があり、症状固定の判断に適する時期になるまで時間を要するなど、時間的な考慮要素があります。
障害年金・障害児養育年金の類型で、一度不支給決定となったものの、時間の経過により状況が変化したため、その資料を追加して再度チャレンジできないか、というケースでは、再申請が選択肢になると考えられます。

本記事が好転のきっかけになりましたら幸いです。

弁護士 圷 悠樹