予防接種健康被害救済制度Q&Aの追補その7(生計同一性要件の検討)
予防接種健康被害救済制度についての私家版Q&Aでは、公表資料から、主に制度の現状の整理をしました。
本記事では、弁護士として、法的観点からのQ&Aを追加していきます。
特別の断りがない限り、新型コロナワクチンの予防接種とその健康被害を想定しています。
Q 死亡一時金の受給資格が「配偶者または同一生計の遺族」とありますが、「同一生計」(生計同一性)とはどのようなことですか。
A
本記事をお読みいただいているのが、健康被害者の御遺族の方でしたら、健康被害の中でも取り返しがつかないもので、本当に胸が痛みます。
謹んでお悔やみを申し上げます。
1 回答の要点
- 生計同一性について、定型的な証明書類が例示されています。定型的な証明書類で対応できる場合はそれを準備してください。定型的な証明書類で対応しにくい場合は、生計同一性の考え方を意識して、証明書類を準備する必要があります。
- 生計同一性の考え方について、予防接種健康被害救済制度上の独自の認定基準・認定要領等はないと考えられるため、他制度の基準を参照することになります。
- 実務上は、まず国民年金・厚生年金保険の遺族年金の生計同一性の基準を参照し、補充的に労災補償の遺族年金の「生計維持関係」の基準を参照しつつ、証明すべき事実を明確にした証明書類を作成するのが望ましいと考えます。
- 国民年金・厚生年金保険と労災補償のそれぞれの基準の参照のポイントは、後記2⑷のまとめをご覧ください。
2 回答の説明
予防接種健康被害救済制度のうち死亡一時金の受給資格は、以下のとおりです(予防接種法施行令17条1項)
- 配偶者(内縁を含む)、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹(左の順序で決定)
- 配偶者以外は、予防接種を受けたことにより死亡した者の死亡の当時その者と生計を同じくしていた者に限る。
(※新型コロナワクチンの話ではありませんが、「特定B類疾病臨時接種」(令和6年3月末までは「新臨時接種」)の場合は一部相違があります。本記事では省略します)
配偶者以外の遺族については、健康被害者と「生計を同じくしていた者」であること(生計同一性)が受給要件とされています。
配偶者が受給権者となる場合は生計同一性要件はありませんが、配偶者以外の遺族の場合は実子や実親であっても生計同一性が必要となります。
ただ、この「生計同一性」は、必ずしも同居の場合に限られるわけではありません。
一般の語感とは異なるので、語感の印象をあまり重視しない方がよいでしょう。
国側の通知では、予防接種健康被害救済制度における生計同一性について、「生活の一体性があったことをいう」「必ずしも同居を必要とするものではない」としています。
・予防接種法及び結核予防法の一部を改正する法律の一部等の施行について(昭和五二年三月七日)(衛発第一八六号)(各都道府県知事あて厚生省公衆衛生局長通知)
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta4866&dataType=1&pageNo=1
この遺族のうち、配偶者以外のものについて要求されている「生計を同じくしていた」とは、死亡した者と、その遺族との間に生活の一体性があったことをいうものであり、必ずしも同居を必要とするものではないこと…(当該通知の第5・1項⑴)
生計同一性の証明書類について、厚生労働省のWebサイトの一般向けの箇所では情報が乏しいですが、国作成の自治体向け手引きでは、より詳しい説明が書かれています。
・新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の実施に関する手引き 21版(厚生労働省Webサイト掲載)
https://www.mhlw.go.jp/content/001209500.pdf
請求者が配偶者以外の場合は、死亡した者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたことを明らかにすることができる住民票等の書類
- 死亡者と請求者が同一世帯の場合
請求者世帯の世帯住民票と健康被害者の除票- 死亡者と請求者が同一世帯でない場合
- 請求者世帯の世帯住民票と健康被害者の除票
- 生計を同一にしていたことを証明する民生委員等の第三者による証明書
(民生委員等の第三者の例:児童委員、病院長、施設長、事業主、町内会長、家主、隣人等(受給権者、生計維持認定対象者及び生計同一認定対象者の民法上の三親等内の親族は含まない))ただし、以下のものを提出した場合には②を省略できる。
- 死亡者と請求者が健康保険等の扶養の関係であったことが分かる書類(健康保険証等の写し等)
- 死亡者か請求者が所得税法上の控除対象扶養親族であったことが分かる書類(源泉徴収票、課税台帳等の写し等)
- 生活費の一部負担していたことを裏付けることができる書類(生活費、学費、療養費の送金を証明する預金通帳、振込明細書、現金書留封筒等の写し等)
いかがでしょうか。
健康保険等の扶養親族、所得税法上の控除対象扶養親族、生活費・学費・療養費などの送金、といったことは、一般的な「同一生計」という語感という語感とは合わないかもしれませんが、生計同一性の証明となり得る、とされていますね。
(上記は定型的な必要書類の説明であって認定基準ではないので、これがあれば認定される、という意味ではないことにご留意下さい)
定型的な証明書類を準備できる場合は、それを準備すればよいでしょう。
問題は、定型的な証明書類を準備しにくく、「第三者による証明書」の準備を検討しなければならない場合です。
例えば、本人名義の口座のキャッシュカードを遺族が持っていて、ATMで本人口座に定期的に入金していた場合(入金伝票を保管していない)。振込手数料節約のため、意外とよくありそうなケースです。
こうした場合、「生計同一性」「生活の一体性」とは何か、どのような事実を証明すべきなのかを、意識して対応を検討する必要があります。
では、「生活の一体性があったこと」とは、どのような場合に認められるのでしょうか?
私が調べた範囲では、上述の通知以外に、生計同一性についての認定基準・認定要領やそれに関する通知等の文書は確認できませんでした。
別記事で取り上げた「障害の状態」の認定基準(障害認定基準)と同じような状況で、予防接種健康被害救済制度の独自の認定基準・認定要領等は作成されていないと思われます。
よって、他制度の基準を参照しつつ、柔軟な認定判断を求めていく、というのが、現状でもっとも確からしい方針と考えます。
ただ、他制度の参照について、障害認定基準の場合は、少なくとも制度創設時の法改正の国会審議で一定の説明があり、沿革的な手がかりがありました。
生計同一性要件については、制度創設時の国会審議でも触れられていないようです。
おそらく、当時はもっぱら子どもの予防接種を想定していたので、健康被害者の子どもと同一生計の親が当然いるもの、という暗黙の共通認識があったのではないかと考えられます。
言い換えると、「生計同一性」がハードルとして意識されるのは、成人の接種が中心となった新型コロナワクチンに特徴的な現象といえるかもしれません。
⑵ 他制度における生計同一性 その1:国民年金・厚生年金保険
他制度の考え方を参照する場合、もっとも有力なのは、国民年金・厚生年金保険(遺族年金)です。
別記事で述べたとおり、予防接種健康被害救済制度の障害等級表は、成人の場合は国民年金・厚生年金保険を参考にしており、沿革的な関わりがあります。
そして、国民年金・厚生年金保険には、「生計同一性」「生計維持者」両方の基準があります。
実は、予防接種法上も、「生計同一性」のほかに「生計維持者」の概念があり、内容的な類似性があります。
予防接種法上の「B類定期接種」の遺族年金は、死亡した健康被害者が「生計維持者」であることが受給要件となります。
また、「新臨時接種」(令和6年3月末まで)または「特定B類疾病臨時予防接種」(令和6年4月1日以降)の健康被害の場面では、「生計維持者」かどうかにより、一部の給付金額の違いがあります。
年金関係の事務は、市町村が関与する場面があり、年金の基準であれば市町村にもなじみがあり、対応しやすいでしょう。
沿革、内容的な類似性、実務上の行政側の運用しやすさ、において、国民年金・厚生年金保険を参照するのがもっとも有力と考えられます。
では、国民年金・厚生年金保険の「生計同一性」の基準を見てみましょう。
遺族基礎年金・遺族厚生年金の受給要件として、「生計を維持されている」(生計維持者)があり、その要素の1つが「生計同一性」です。
・さ行 生計維持(日本年金機構Webサイト)ページID:170010010-780-912-592
https://www.nenkin.go.jp/service/yougo/sagyo/20160824.html
「生計を維持されている」とは、原則次の要件をいずれも満たす場合をいいます。
- 生計を同じくしていること。(同居していること。別居していても、仕送りをしている、健康保険の扶養親族である等の事項があれば認められます。)(※生計同一性要件)
- 収入要件を満たしていること。(前年の収入が850万円未満であること。または所得が655万5千円未満であること。)(※収入要件)
上記のとおり、「1.生計を同じくしていること」(生計同一性)の説明として、「仕送りをしている、健康保険の扶養親族である等の事項」があれば、別居していても生計同一性が認められる、とされています。
より詳しい認定基準を見てみましょう。
・生計維持関係等の認定基準及び認定の取扱いについて(国民年金法)(平成23年3月23日)(年発0323第1号)(日本年金機構理事長あて厚生労働省年金局長通知)
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb7210&dataType=1要点をまとめると、次のような場合には同一生計に該当するものとする、としています。
【本人と配偶者または子との生計同一性】【本人と父母・孫・祖父母・兄弟姉妹・その他の三親等内の親族との生計同一性】
- 住民票上同一の世帯である場合
- 住民票上別世帯であるが、住民票上の住所が同一の場合
- 住民票上の住所が異なっているが、現に起居を共にし(居所が同一)、家計が同一の場合
- 単身赴任・就学・療養等のやむを得ない事情により住民票上の住所が異なっているが、生活費・療養費等の経済的な援助や定期的な音信・訪問の事実があり、やむを得ない事情が消滅した時は居所同一・家計同一にすると認められる場合
- 住民票上同一の世帯である場合
- 住民票上別世帯であるが、住民票上の住所が同一の場合
- 住民票上の住所が異なっているが、現に起居を共にし(居所が同一)、家計が同一の場合
- 住民票上の住所が異なっているが、生活費・療養費等について生計の基盤となる経済的な援助が行われている場合
3 生計同一に関する認定要件
(1)認定の要件
生計維持認定対象者及び生計同一認定対象者に係る生計同一関係の認定に当たっては、次に該当する者は生計を同じくしていた者又は生計を同じくする者に該当するものとする。
① 生計維持認定対象者及び生計同一認定対象者が配偶者又は子である場合
ア 住民票上同一世帯に属しているとき
イ 住民票上世帯を異にしているが、住所が住民票上同一であるとき
ウ 住所が住民票上異なっているが、次のいずれかに該当するとき
(ア) 現に起居を共にし、かつ、消費生活上の家計を一つにしていると認められるとき
(イ) 単身赴任、就学又は病気療養等の止むを得ない事情により住所が住民票上異なっているが、次のような事実が認められ、その事情が消滅したときは、起居を共にし、消費生活上の家計を一つにすると認められるとき
(ア) 生活費、療養費等の経済的な援助が行われていること
(イ) 定期的に音信、訪問が行われていること
② 生計維持認定対象者及び生計同一認定対象者が死亡した者の父母、孫、祖父母、兄弟姉妹又はこれらの者以外の三親等内の親族である場合
ア 住民票上同一世帯に属しているとき
イ 住民票上世帯を異にしているが、住所が住民票上同一であるとき
ウ 住所が住民票上異なっているが、次のいずれかに該当するとき
(ア) 現に起居を共にし、かつ、消費生活上の家計を一つにしていると認められるとき
(イ) 生活費、療養費等について生計の基盤となる経済的な援助が行われていると認められるとき(2)認定の方法
これらの事実の認定については、受給権者から別表2の書類の提出を求め行うものとする。
(中略)
別表2 生計同一に関する認定関係認定対象者の状況区分 提出書類
①―ア 住民票(世帯全員)の写
①―イ a それぞれの住民票(世帯全員)の写
b 別世帯となっていることについての理由書
①―ウ―(ア) a それぞれの住民票(世帯全員)の写
b 同居についての申立書
c 別世帯となっていることについての理由書
d 第三者の証明書又は別表4に掲げる書類
①―ウ―(イ) a それぞれの住民票(世帯全員)の写
b 別居していることについての理由書
c 経済的援助及び定期的な音信、訪問等についての申立書
d 第三者の証明書又は別表4に掲げる書類
②―ア 住民票(世帯全員)の写
②―イ それぞれの住民票(世帯全員)の写
②―ウ―(ア) a それぞれの住民票(世帯全員)の写
b 同居についての申立書
c 第三者の証明書又は別表4に掲げる書類
②―ウ―(イ) a それぞれの住民票(世帯全員)の写
b 経済的援助についての申立書
c 第三者の証明書又は別表4に掲げる書類(中略)
別表4 生計同一関係を証明する書類(別表1及び別表2関係)事項 提出書類
- 健康保険等の被扶養者になっている場合
健康保険被保険者証等の写- 給与計算上、扶養手当等の対象になっている場合
給与簿又は賃金台帳等の写- 税法上の扶養親族になっている場合
源泉徴収票又は課税台帳等の写- 定期的に送金がある場合 預金通帳、振込明細書又は現金書留封筒等の写
- その他①~④に準ずる場合 その事実を証する書類
提出書類の部分は、前記の自治体向け「新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の実施に関する手引き」の記載と共通点が多いですね。
手引きの記載はおそらくこれを下敷きにしています。予防接種健康被害救済制度の「生計同一性」の基準として参照する場合は、上記の3⑴のどの項目にあてはめるかを意識するのがよいでしょう。
ところで、上記の認定基準は、「次に該当する者は…生計同一に該当するものとする」という内容です。
これは限定列挙ではなく例示列挙の趣旨と考えられます。つまり、これ以外の場合にも生計同一性が認められる場合があることを否定するものではない、ということです。
健康保険の扶養親族であることは、列挙されているどの項目に該当するのか必ずしもはっきりしませんが、「健康保険の扶養親族である等の事項があれば認められます。」とされていますね。このことから、「生計同一性」について国民年金・厚生年金保険の基準を参照するとしても、その基準に限定されるわけではない、限定列挙ではなく例示列挙だから、その基準を超えた場合でも生計同一性は認められ得る、と考えられます。
次の労災補償の基準は、そうした位置づけにおいて参照する価値があります。
例えば、健康保険の扶養親族であることから生計同一性を認めることについては、次に述べる労災補償での生計維持関係の基準からの方が、説明しやすいと考えられます。⑶他制度における生計同一性 その2:労働者災害補償保険法
いわゆる労災補償の遺族年金には、生計維持要件があります。
前述の国民年金・厚生年金保険の生計維持者も、生計同一性要件+収入要件=生計維持者なので、「生計維持」と「生計同一性」は実質的に重なる部分があります。
ただ、後述のとおり労災補償の「生計維持」は範囲がかなり広いといえます。・労働者災害補償保険法の一部を改正する法律第三条の規定の施行について(昭和四一年一月三一日)(基発第七三号)(都道府県労働基準局長あて労働省労働基準局長通達)
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb2478&dataType=1&pageNo=1もつぱら又は主として労働者の収入によつて生計を維持されていることを要せず、労働者の収入によつて生計の一部を維持されていれば足りる。
したがつて、いわゆる共稼ぎもこれに含まれる。また、上記の関連通達(昭和41年10月12日付基収第1108号、平成2年7月31日付基発第486号)では、要旨次のように述べています。
(各通達がWeb上で閲覧可能な形で確認できないため、文献の記載をもとにした要約になります)
- 労災保険法上の遺族補償年金の受給要件である「労働者の死亡当時その収入によって生計を維持していた」(生計維持者)は、⑴生計維持関係(下記)が、⑵常態であったか否か、によって判断する。
- ⑴の生計維持関係とは、労働者の死亡当時、その収入によって日常の消費生活の全部又は一部を営んでおり、死亡労働者の収入がなければ通常の生活水準を維持することが困難となるような関係をいう。
- 原則として、生計依存関係:当該遺族が死亡労働者の収入によって消費生活の全部又は一部を営んでいた関係があれば、生計維持関係があったと認めてよい。(例外:当該遺族の生活水準が年齢・職業の類似する一般人をいちじるしく上回る場合)
- 死亡労働者が当該遺族と同居してともに収入を得ていた場合には、相互に生計依存関係がないことが明らかに認められる場合を除き、生計依存関係を認めてよい。ただし、当該遺族が死亡労働者の孫・祖父母・兄弟姉妹の場合は、当該遺族とその同居者の収入がその消費生活のほとんどを維持しうる程度にあれば、原則として生計依存関係は認められない。
- (⑵常態であったこと、については、関連が薄いため省略)
労災補償での「生計維持」の特徴は、範囲がかなり広い、といえます。
同居でなくても、当該遺族が死亡労働者の収入によって日常の生活費支出の一部を営んでいる状況(生計依存関係)であれば、原則として生計維持関係を認めてよい、とされています。前述の健康保険の扶養親族のケースは、労災での基準からすれば、生活費としての健康保険料を負担しているので、生計依存関係にあり、原則として生計維持関係を認めてよいといえそうですね。
労災の基準の要点はということです。
- 生計維持関係:労働者の死亡当時、その収入によって日常の消費生活の全部又は一部を営んでおり、死亡労働者の収入がなければ通常の生活水準を維持することが困難となるような関係
- 生計依存関係:当該遺族が死亡労働者の収入によって消費生活の全部又は一部を営んでいた関係
- 原則として、⑵の生計依存関係があれば、⑴の生計維持関係を認めてよい
予防接種健康被害救済制度の「生計同一性」について労災の基準を参照する場合、特に第三者による証明書を検討する場合は、上記の⑵生計依存関係、⑴生計維持関係がポイントといえるでしょう。ただし、労災の基準は、国民年金・厚生年金保険の基準と比べて、予防接種健康被害救済制度との近接性が劣ります。
あくまで、予防接種健康被害救済制度の独自の認定基準・認定要領等がなく、国民年金・厚生年金保険も限界を定めてはいないので、補充的に労災の基準を参照すると、という位置づけとなります。⑷ここまでのまとめ
予防接種健康被害救済制度の「生計同一性」については、以下のように考えるのが、現状もっとも確からしい方針と考えられます。
- 予防接種健康被害救済制度の独自の認定基準・認定要領等はないため、まずは国民年金・厚生年金保険の基準を参照します。
- 国民年金・厚生年金保険の基準は、生計同一性に該当する場合と定型的な証明書類を列挙していますが、これは限定列挙ではなく例示列挙と考えられます。
- 国民年金・厚生年金保険の基準にストレートにあてはめづらい場合、労災補償の基準を補充的に参照します。
- 第三者による証明書の作成の際は、国民年金・厚生年金保険と労災保険の基準を参照して、証明したい事実関係を明確にしましょう。
- 国民年金・厚生年金保険の基準を参照する場合は、例示列挙事由のどの項目にあてはめるか、を意識するとよいでしょう。
- 労災補償の基準を参照する場合は、生活の一体性として、遺族が健康被害者の収入によって消費生活の全部又は一部を営んでいた関係(生計依存関係)、健康被害者の死亡当時、その収入によって日常の消費生活の全部又は一部を営んでおり、健康被害者の収入がなければ通常の生活水準を維持することが困難となるような関係(生計維持関係)、があるといえるような事実関係を意識するとよいでしょう。
なお、先に例にあげた、
振込手数料節約のため、本人名義の口座のキャッシュカードを遺族が持っていて、ATMで本人口座に定期的に入金していた場合(入金伝票を保管していない)
について、弁護士としての見解を述べておきます。実は、この場合、通帳の記載からも意外と多くの情報がわかります。その口座の取引明細をとると、さらに情報が増えます。
ATMでの取引だと、摘要欄に番号が記載されると思います。これはATMの番号で、どこの支店・出張所か、が分かります。
その口座の取引明細をとると、金融機関にもよりますが、ATM番号のほかに、取引時間も分かる場合が多いと思います。被害者本人と遺族が同居していなかった場合ですので、生活圏や生活時間が異なるのではないでしょうか。入金の場所や時間は、被害者本人よりも遺族の生活圏や生活時間に近くはないでしょうか。
また、子どもや高齢親への仕送りなら、LINEや手紙などで、仕送りの連絡やお礼のやりとりなどはないでしょうか。
やりとりの中で具体的な金額に触れていなくても、入金の時期と近接していないでしょうか。個別の事情にもよりますが、ATMに入金をした場所(支店・出張所)とその時間帯、当事者間のやりとりなどで、本人でなく遺族による入金の蓋然性を裏付けられないでしょうか。
弁護士としては、定型的な証明書類がなければ、次は蓋然性による証明を考えます。専門用語では「間接事実による推認」といいます。
第三者による証明書は、駄目押し的な位置づけで考えることが多いです。事実関係の証明は、法律実務家の得意分野です。裁判手続の時間の多くは事実関係の証明に費やします。
定型的な証明書類が難しい場合には、一度ご相談いただくのがよいと思います。4 結論にかえて(私見)
最後に、「生計同一性」要件についての私見を述べます。行政や裁判所とは当然見解の相違があると思います。
弁護士の感覚では、そもそも「生計同一性」が死亡一時金の受給になぜ必要なのかが不明確で、かなりの違和感があります。
それゆえ、「生計同一性」要件の認定には柔軟さが求められる、言い換えると、「生計同一性」要件によって救済給付を行わない場面は限定する方向で運用されるべきではないか、と考えます。国民年金・厚生年金保険の遺族年金や労災補償の遺族年金は、遺族の生活保障を目的としていますが、それと決定的に異なる点があります。
死亡一時金は慰謝料的性格が強いのです。
予防接種健康被害救済制度の中でも遺族年金のように遺族の生活保障を目的としたものもあり、医療費・医療手当や障害年金・障害児養育年金は治療費・将来介護費のような積極損害の補償との説明ができますが、死亡一時金はこうした説明は困難です。
制度創設時の国会審議での政府委員の説明でも、慰謝料ではないが慰謝料的性格を加味した補償、という趣旨の説明がされています。私たち弁護士の感覚からすると、慰謝料の請求権者を生計同一性によって限定するのは、生計同一性要件を100かゼロかの問題にしてしまうことを意味し、これには強い違和感があります。
生計同一性や生計維持関係の有無で金額に差を設けるのであれば、民事上の損害賠償の場面でもあることで、それほど違和感はありません。
新型コロナワクチンの話ではありませんが、予防接種法上の新臨時接種(令和6年3月末まで)・特定B類疾病臨時接種(令和6年4月1日以降)の場合に、「生計維持者」かそうでないか、で死亡一時金の金額を区分していますが、金額の区分であればそれなりに理解できます(ただ、これらにも生計同一性要件があり、その必要性が不明確なのは同じですが)。現在の制度上は、生計同一性要件が100かゼロかの問題になってしまうので、その認定判断には柔軟さを求めたいところですが、あわせて、国側の広報でも検討していただきたいところです。
生計同一性は、基本的に事実関係の調査の問題で、予防接種と副反応の因果関係のような専門的医学的判断の問題ではありません。
また、年金や労災のような他制度の基準を比較的参照しやすい事項でもあります。
現状では、厚生労働省Webサイトの予防接種健康被害救済制度の広報に生計同一性の説明はほぼないようです。提出書類の説明も自治体向け手引きとは差があります。
生計同一性を認定できると考えられるケースや認定事例の紹介など、広報面での改善を願います。【追記 2024.10.05】
厚生労働省が各都道府県に配布した「予防接種健康被害救済業務 Q&A集」に、生計同一性要件に関する項目があります。
Q5-1からQ5-5です。・出典:予防接種健康被害救済業務 Q&A集(リンク先PDFの33頁以下がQ&A部分)
http://www.nagaoka-med.or.jp/nichii_mail_bunsho/nichii_mail_bunsho_2024/2024ken2_222.pdf
(厚生労働省Webサイト上ではQ&A部分が含まれる文書が見つからなかったので、Q&A部分を含む長岡市医師会のサイト掲載文書のリンクを掲示)生計同一性の意味については、以下のような記述があります。
Q5-1
出典:予防接種健康被害救済業務 Q&A集
予防接種健康被害救済制度の「生計同一」の考え方とは?
A5-1
生計を同一にしていたこととは、「日常生活において何らかの継続的な関係を結んでいたこと(例:常に生活費や学費等を送金してもらっていた)」を指します。
客観的に見て死亡当時に生計を同一にしていたと判断するに足る金額や頻度の確認が必要です。
生計同一にあたるかについては、各自治体で実態を確認いただいた上でご判断ください。生計同一性要件については「各自治体で実態を確認いただいた上でご判断ください。」と、自治体に判断を委ねるのが、厚労省の姿勢のようです。
生計同一性要件の確認方法(Q5-2)については、基本的に自治体向け手引きの内容と同様と思われます。
Q5-3以下は、第三者による証明の「第三者」の範囲の例示などです。全体としてあまり目新しい内容はありませんが、自治体向け手引きとともに参照していくことになると思われます。
弁護士 圷 悠樹