偽ECサイト詐欺に引っかかりそうになった話

ある入手困難な書籍を探していたときのことです。
その書籍は、お金を積めば手に入るものでした。しかし高価で、踏み切れずにいました。

そんなとき、ネット上で、ECサイトに古書で出品されているのを見つけました。しかも割安です。欲しい!

しかし。そのECサイトの外観に不安を感じました。
日本の著名なECサイトと作り(というか基本の思想)が違う印象で、URLや問合せ先のメールアドレスも変でした。
URLやアドレスに規則性がなく、使い捨て前提でとったものにも見えます。
ECサイト上に運営会社が記載されいるので国税の法人番号公表サイトで検索すると、運営会社は法人として実在しており、登記上の住所とも一致していました。

とりあえず注文を入れてみようか、とも考えましたが、やはり躊躇があり、翌日に先送りしました。

翌日、運営会社の自社サイトがあったので拝見しました。
すごく堅実そうな地域密着の事業会社です。自社サイトでも自社商品のECをやっています。
会社自体は大丈夫そうでしたが、ECサイトとのギャップが大きいのが気になりました。

運営会社の自社サイトに載っている法人情報を、ECサイト側の表記と比べてみました。
代表者と創業年が全然違っています。あれ?

ECサイトと運営会社の自社サイトのそれぞれのURLをWeb調査ツール(aguse)にかけてみました。
サーバーやIPアドレス管理者の法人が全然違っていて、運営会社のサーバーは国内、ECサイトのそれは海外のサーバーです。
一気に怪しくなってきました。

運営会社の自社サイトに、市外局番での固定電話があるので、電話をかけて、これこれのECサイトを運営されているか確認しました。
先方は心当たりないとのこと。

実在する会社の名義を騙った詐欺サイトでした!
法律家の感覚に戻れば、ECサイト記載の運営会社の会社名+所在までは実在の法人と同一なので、故意のなりすましと判断せざるを得ません。
故意に実在の法人のなりすましをするからには正常な取引をするとは考えられず、詐欺サイト、という結論に達します。

途中までは取引をする前提で確認をしよう、という意識でした。
とりあえず注文を入れてみることにしていたら、どうなっていたことやら。

詐欺にもプッシュ型とプル型があります。
プッシュ型/プル型は、本来はマーケティング用語です。
プッシュ型の例は、古典的なオレオレ詐欺、訪問販売や押し買いなどで、詐欺業者側から被害者側に接触する形態です。
プル型の例は、投資詐欺などで、広告などを見た被害者側から詐欺業者側に接触する形態です。

今回のECサイトはプル型です。
プル型の特徴として、そもそも被害者側が、詐欺業者の広告を信じたいという心情で詐欺業者に連絡している、ということがあります。
カエサル(ジュリアス・シーザー)の言葉で、「人は、自分が信じたいことを喜んで信じる」というものがありますが、まさにそういう状態ですね。

今回引っかからずにすんだのには、業者側にコンタクトする前に翌日に先送りにしたこと、その間に他人の意見を聞いて多少とも自分を客観視できたこと、などがありました。

法律家としては、プッシュ型詐欺/プル型詐欺というと、特定商取引法の訪問販売と通信販売との対比を思い浮かべることが多いでしょう。
ただ、今回の件で改めて考えてみると、そもそもプッシュ型の詐欺とプル型の詐欺ではターゲットとなる被害者のタイプが違うのです。

プッシュ型の場合、普段から漠然と不安や孤独を感じている方が、ターゲットになりやすいでしょう。
オレオレ詐欺が典型ですが、詐欺業者は被害者にもともとあった不安や孤独を利用してストーリーを信じさせるのです。

プル型の場合、自分はきちんと判断できる、他人よりも先んじて機会を見つけることができる、というように自己評価が高い方が、ターゲットになりやすいと思います。
投資詐欺が典型ですが、被害者側がある程度自分で調べて詐欺業者の情報にたどり着く、そしてそれを信じたいと思う、というプロセスが必要ですから。

「まさか自分が詐欺に引っかかるなんて」という話をよく聞きます。
実際、自分も多少ともその意識はあったと思います。
自分はそれほど自己評価が高いタイプではないと思っていましたが、今回は、「さすがにこれは詐欺ではないのではないか」という先入観がありました。
あんなマニアックな書籍に、割安とはいえ○○円もの買値をつける人間なんてそうそういないはずで、ターゲットが狭すぎて詐欺のネタにならないだろう、という。
つまりそれが、「自分が信じたいことを喜んで信じる」という、プル型詐欺の被害者になりやすい心理だったんでしょうね。

弁護士 圷悠樹