連帯保証人の解除・解約は可能か?-法律と実務対応の現状と解決策-

いったん連帯保証人になった場合に、保証人をやめる(=解除または解約をする)ことはできるのでしょうか?

連帯保証は、債務を履行すべき当事者(主債務者)が履行できない場合に、担保とする目的ですから、そう簡単に解除などができては制度として機能しません。

原則論としては、連帯保証人となる契約をした時点で、重大な事実誤認(錯誤)や詐欺・強迫行為があった場合などに限られます。
これらは、法律的には、解除・解約ではなく、無効や取消になります。

ただ、それ以外の場合には連帯保証人をやめることは一切不可能なのか、というと、まったく余地がないというわけではありません。

今回は、銀行借入の連帯保証の場合を考えます。
銀行以外の金融機関(ノンバンクなど)の場合には妥当しない話ですので、注意してください。

1.個人連帯保証の制限の動向

ここ最近の大きな流れとして、銀行借入の連帯保証は、制限される方向にあります。

具体的には、以下の動きがあります。
⑴金融庁の監督方針:経営者以外の第三者個人保証はとらないことが原則とされたこと
⑵金融機関の自主ルール:経営者の個人保証については、経営者保証に依存しない融資を促進すべきとされたこと
⑶民法(債権法)改正:事業性資金の借入については、第三者の個人連帯保証に公証人の意思確認手続が必要となること

⑴については、金融庁の監督指針(主要行等向けの総合的な監督指針、中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針)が典拠です。そこでは、

経営者以外の第三者の個人連帯保証を求めないことを原則とする融資慣行の確立等
信用保証協会における第三者保証人徴求の原則禁止ルールの参照

がうたわれています。

⑵については、金融機関の自主ルールとして策定された「経営者保証ガイドライン」が、経営者保証に依存しない融資の促進を掲げています。
同ガイドラインは、そのほかにも、保証債務の履行局面での破産によらない整理手法などを定めています。

また、⑶民法(債権法)改正によって、事業性資金の借入については第三者の個人連帯保証に公証人の意思確認手続が必要となること、というルールが追加されました。

こうした動向にあるため、銀行側も、第三者の個人連帯保証を抑制する対応を検討せざるを得ない状況といえるでしょう。

2.個人連帯保証の解除・解約を求める根拠はあるか

では、既に第三者が個人連帯保証をしている場合に、それを解除・解約できるものでしょうか?
前に述べたとおり、そう簡単に解除できては連帯保証の意味がないところですが・・・。

「経営者保証ガイドライン」には、「既存の保証契約の適切な見直し」という項目があります。
主債務者の経営改善等を前提に、主債務者及び連帯保証人から既存の保証契約の解除の申入れがあった場合に、金融機関が真摯かつ柔軟に検討し、検討結果を主債務者及び連帯保証人に説明するよう求めています。

経営者以外の第三者保証人も、この項目を根拠に、既存の保証契約の解除を申し入れることは可能と考えられます。
ただし、ガイドラインの設定する条件に沿って、つまり、主債務者の経営改善と財務状況の正確な開示を前提に、主債務者と連帯保証人が足並みをそろえて交渉に臨む必要がありそうです。
また、ガイドラインは、金融機関に真摯な検討と丁寧な説明を求めていますが、連帯保証の解除を義務づけているわけではありません。
あくまで、金融機関の判断次第となります。
現に主債務者の側で返済の不履行が生じているような状態では、難しいでしょう。

既存の保証契約の解除(解約)は、金融機関側にとってもハードルが高いと思われます。
そこで、より現実的なのは、主債務者が借換えをするタイミングで、連帯保証人から外れることでしょう。
経営者以外の第三者の場合は、前述の金融庁の監督指針を根拠に、連帯保証人から外してもらうよう交渉をすることが考えられます。

なお、第三者でなく、経営者である保証人が同種の交渉をする場合は、「経営者保証ガイドライン」を正面から根拠にすることになります。
こちらの場合は、主債務者(法人)と経営者個人の財産の明確な分離、財務基盤の強化、情報開示による経営の透明性確保などが条件となります。

経営者保証ガイドラインは、民法などの成文法ではなく、いわゆるソフト・ローの一種です。
金融庁の監督指針は、そもそも私法上のルールでさえなく、行政庁が金融機関を監督する際の考え方、という位置づけです。
民法のルールでは、よほどの事情がなければ連帯保証の解除・解約は難しいところですが、一方で、民法以外のアプローチでトライする余地があるといえます。

3.判例ではどうなっているか

なお、過去の判例では いわゆる根保証(継続的に発生する債務を包括的に担保するタイプの保証契約)については、一定の条件下で解約を認める判断をしたものがあります。
例えば、最判昭和39年12月18日は、

  • 期間の定めのない継続的保証契約(根保証)は、
  • 保証人の主債務者に対する信頼が害されるに至った等、保証人として解約申入れをするにつき相当の理由がある場合には、
  • 右解約により債権者が信義則上看過できない損害を被るような特段の事情があるときを除いて、
  • 保証人から一方的に解約することができる。
と判断しています。
ただし、ここでいう解約は、将来に向けての解約です。仮に解約ができたとしても、既に発生している債務については責任を免れることはできません。

判例が設定する条件をみたすような場合には、主債務者が不履行になっている可能性が高いと思われます。
したがって、判例が一定の条件下で解約を認めているといっても、その意味は限定的なものです。

また、平成16年の民法改正で、貸金等根保証の元本確定期日・元本確定事由が法定されたため、貸金等根保証については上の判例を使う必要はなくなりました。
上の判例が機能するのは、貸金等根保証ではない根保証の場面に限られます。

4.整理と要点

ここまでの話を整理しましょう。

大事なことなのであえて3回目の繰り返しをしますが、連帯保証は、主債務が不履行になった場面に備えて担保とする目的ですから、簡単に解除できては意味がありません。

交渉により余地があるとはいえ、主債務が既に不履行になった段階では、銀行側が応じる見込みはまずありません。
トライするなら、むしろ、主債務者が健全な状況であるうちにトライするべきです。

第三者の個人保証であれば、金融庁の監督指針(主債務の借換時の離脱の場合)、経営者保証ガイドライン(契約期間中の解除の申入れの場合)が交渉の手がかりです。
経営者の個人保証であれば、経営者保証ガイドラインが交渉の手がかりです。

これらを指摘されれば、銀行側も、少なくとも具体的な検討はしなければなりません。
結論がどうなるかは、交渉次第でもあり、金融機関の判断次第でもありますが、主債務者・保証人と金融機関の間の信頼関係次第ともいえます。

ここで1つセールストークをさせていただくと、私たち弁護士の仕事の1つが、そうした信頼関係の補完、当事者だけでは作れない信用を補強して債権者との高度な信頼関係を成り立たせること、です。
このことは、保証債務の履行局面に入ったときの、経営者保証ガイドラインによる破産によらない保証債務の整理の場面で、特に重要になってきます。

連帯保証の問題に直面している皆様の解決の一助になりましたら、幸いです。

弁護士 圷悠樹