廃業時の保証債務の解決 -廃業時における『経営者保証ガイドライン』の基本的考え方」の紹介-

別記事で取り上げた「経営者保証ガイドライン」。
その柱の1つが、「経営者保証ガイドラインによる保証債務の整理」です。
保証債務が履行請求の段階にあっても、破産手続以外の方法で保証債務の整理をする選択肢となり、かつ、破産手続よりも多くの資産を手元に残すことができる可能性がある、ということが特徴です。

その分野で課題だったのが、
主債務者が廃業のため法的整理をする場合に、保証人のみ経営者保証ガイドラインで私的整理をする手法(単独型)の普及が遅れていた
という点です。

今回取り上げる「廃業時における『経営者保証ガイドライン』の基本的考え方」は、この点への対応を強調しています。
それへの対応として、今回取り上げる「廃業時における『経営者保証ガイドライン』の基本的考え方」が、
令和4年3月 公表
令和5年11月 改定

との経過で、現在に至ります。

経営者保証ガイドライン(GL)は、2013年12月公表・2014年2月開始と、以前からありました。
この「基本的考え方」は、GLの活用方法、すなわち、主債務者が廃業する場合に、保証人となっている経営者等の関係者が、個人破産以外の方法、すなわち経営者保証ガイドラインによる保証債務の整理(私的整理)で保証債務を解決できる方法を提示しています。

ポイントは2つにまとめることができます。
  1. 主債務者が破産した場合でも、保証人は個人破産せずに解決できる可能性がある(経営者保証ガイドラインの本来の意義)
  2. 主債務者と保証人が同じ整理手続による方法(一体型)だけでなく、別々の整理手続による方法(単独型)によることができる(「基本的考え方」の主眼)

主債務者が破産した場合でも、保証人は個人破産せずに解決できる可能性がある(経営者保証ガイドラインの本来の意義)

もともと、経営者保証ガイドラインは、保証人が個人破産以外の方法で保証債務を解決する手法を提示するものでした。

そのポイントをまとめると、
  • 主債務者の整理手続(法的整理または一定の私的整理手続(準則型私的整理手続))をとる際、その手続期間中に保証人の保証債務についても所定の整理手続をとることにより、
  • 破産手続の場合よりも多くの財産(残存資産)を手元に残すことができる可能性がある

イメージをつかむための資料をひとつあげておきます。

・まんがで解説 経営者保証に関するガイドラインのポイント
https://www.pref.kochi.lg.jp/doc/2016100400020/file_contents/file_2017581211449_1.pdf

中小企業基盤整備機構

なお、上記資料の最終ページに記載のある、中小企業基盤整備機構による専門家派遣制度は既に終了しています。そのため、保証人側の支援専門家の探し方が課題といえます。

主債務者と保証人が同じ整理手続による方法(一体型)だけでなく、別々の整理手続による方法(単独型)によることができる(「基本的考え方」の主眼)

主債務者が廃業のため法的整理(典型的には破産)をする場合でも、保証人は個人破産以外の方法で保証債務を解決できる可能性がある、ということです。

もともと、経営者保証ガイドラインによる保証債務の整理が利用される局面は、
  • 事業再生の場面(主債務者の債務減免・弁済計画の提示とセットで、ガイドラインによる保証人の債務減免・弁済計画の提示を行う)
  • 事業承継の場面(事業承継による経営者交代に伴い、退任する経営者の保証離脱を行う)
  • 廃業の場面(主債務者の法的整理または準法的整理を行い、その手続係属中に、ガイドラインによる保証人の債務減免・弁済計画の提示を行う)
と、いくつか想定されていました。

このうち、事業再生の場面=事業再建型は、主債務者・保証人セットの手続=一体型と相性がよく、中小企業活性化協議会(旧:中小企業再生支援協議会)を中心に普及が先行していました。

一方、廃業の場面=廃業型は、端的に言うと一体型とは相性が良くありませんでした。
主債務者が法的整理(典型的には破産手続)をする場合、私的整理である経営者保証ガイドラインによる保証債務の整理を同じ手続で行うことはできません。
廃業する主債務者と保証人の整理手続を、準法的整理というべき準則型私的整理手続で一体型で行うことは、理屈上は不可能ではありませんでしたが、現実的ではありませんでした。
一体型の主力である中小企業活性化協議会が、以前は廃業型に対応していなかったこと、金融機関も、廃業型の場合に法的整理でない手続での債務減免に消極的だったこと、などが要因です。
私は、金融機関の担当者から、「特定調停(※準則型私的整理手続の1つ)の場合、主債務者の廃業が前提であれば主債務者の債務減免を伴う弁済計画に同意できません。事業再建型であれば検討できます。」と伝えられたことがあります(後にその債権者も方針が変わったようですが)。

上記のとおり、主債務者が破産手続をした場合、保証人は、経営者保証ガイドラインによる保証債務の整理手続をとるには、主債務者の破産手続と一体の手続ではできないので、保証人単独で整理手続を取る必要があります。
これを「単独型」といいます。
本来、単独型も経営者保証ガイドラインの公表当初から想定されていたのですが、様々な理由から普及が遅れていました。
上記のとおり金融機関が消極的だった面もありますし、保証債務の解決を支援する弁護士サイドでも限られた範囲でしか認知されていなかった面もあります。

「廃業時における『経営者保証ガイドライン』の基本的考え方」は、弁護士サイドも含む関係各方面に、より積極的な対応を促すものといえます。

中小企業活性化協議会も、現在では、廃業の場面での再チャレンジ支援として、保証人のみの単独型の手続にも対応するようになっています。私も協議会スキームでの単独型の取扱事例があります。

また、一体型についても動きがあり、「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」(令和4年3月公表、令和6年1月一部改定)によって、廃業型の場合でも、主債務者・保証人を一体の私的整理手続で完結できる方法が提示されました。
このガイドラインも大きなトピックなので、いずれ独立の記事で取り上げたいと思います。

弁護士 圷悠樹(神奈川県弁護士会所属)