Binanceの暗号資産の相続手続をやってみました

ビットコインなどの暗号資産を扱う取引所の海外大手で、Binance(バイナンス)というところがあります。

日本法では、この業態=暗号資産交換業者は登録が必要とされています。
Binanceの場合、2022年10月に、日本法人(Binance Japan株式会社)の暗号資産交換業者の登録がなされています。

・暗号資産交換業者登録一覧(金融庁Webサイト)
https://www.fsa.go.jp/menkyo/menkyoj/kasoutuka.pdf

ところで、最近、Binanceの暗号資産の相続手続にタッチする機会がありました。
今後同様の相続手続に関わる方へのフィードバックになればと思い紹介します。

本記事は、暗号資産全般、暗号資産交換業者としてのBinance、に対して何らかの肯定的または否定的な評価をする趣旨ではありませんので、ご了解ください。

おおまかな手順は、次のとおりでした。
基本的に、相続人自身が手続をする場合のフローです。

  1. サポートサービス(チャット)に、相続手続について問い合わせる。
    ⇒相続人のアカウント作成後に再度問い合わせるよう案内される。
  2. 相続人のアカウント作成。
  3. 相続人のアカウントでログインし、サポートサービス(チャット)に相続手続について問い合わせる。
    ⇒被相続人・相続人のアカウント情報と、所定の相続関係書類を、Binance日本法人宛に郵送するよう案内される。
  4. 所定の相続関係書類等を郵送。
  5. サポートサービス(チャット)から、所定の書式による相続手続申込書を提出するよう指示される(チャット経由でOK)。
  6. 相続手続申込書提出。
  7. (6)から10日ほどで相続手続完了。相続人のアカウントに暗号資産の残高が移される。

本ケースでは、被相続人のアカウント情報がわかっていたので、アカウントの特定はスムーズにできました。

特徴的な点として、相続対象の暗号資産受け入れ先となる、相続人名義のアカウント作成を、相続手続の申出段階で求められました。
先方との連絡方法は、サポートサービスとのチャットのみでしたが、そこでは日本語を使用できました(おそらく先方が翻訳ツールを使っていて、チャットが一番相性がよいのでしょう)。

相続関係書類・相続手続申込書の提出後は、Binance内部の相続手続のフローに乗ったようで、比較的スムーズでした。
海外金融機関の相続手続に比べれば、負担は少なかったのではないかと思います。
以下、気付いたことや注意点です。

相続手続の申出段階で相続人のアカウントを作るよう求められた

相続する暗号資産の受け入れのために相続人のアカウントが必要になることはわかりますが、相続手続の申出段階で相続人のアカウント作成を求められた、という点が特徴的でした。
後述のとおり、このアカウントのチャットサポートで、先方と相続手続のやりとりをすることになりました。
相続人の方によっては、ハードルが高いと感じる方もおられるかもしれません。

Web上のFAQで案内される相続手続(遺産相続申請フォーム)と、個別のチャットサポートで案内される相続手続(相続関係書類の郵送)が異なる

BinanceのWebサイト上のFAQで相続手続について調べると、前者の、Web上のフォームを使う方法しか表示されません(ノイズ情報と考えるのでそのFAQのリンクは貼りません)。

FAQの案内は、提出書類の指定の仕方が日本法的ではありませんでした(例:認証済み○○という表現)。
また、書類が英語でない場合は英訳文の添付が求められます。

相続人のアカウント作成後、サポートチャットで相続手続について尋ねたところ、後者の、郵送による方法を案内されました。
指示された提出書類は、
  • 被相続人の出生から死亡までの全戸籍
  • 相続人の戸籍全部事項証明書
  • 相続人の印鑑証明書
  • 【遺言書がある場合】遺言書(+公正証書遺言以外の場合は検認調書または検認済証明書)
  • 【遺言書がない場合】遺産分割協議書(法定相続人全員の署名・捺印があるもの)
などです。
この他に、先方から追加で書類の提出を求められる可能性もあります(例えば、先順位の相続人が死亡している場合の、先順位相続人の除籍謄本など)。

このあたりの対応は、国内大手の暗号資産交換業者とだいたい同じでしょう。

上記の郵送による相続手続の案内がすぐ出てこないという点で、整理し切れていない印象があります。
今後は改善されるかもしれません。

事務連絡がサポートチャットで届くが、それに気がつきにくい

実は、もっとも時間を要した(時間をロスしてしまった)のは、この点でした。

必要書類の郵送の後、追加で所定の書式での相続手続申出書の作成を求められました。

このBinance側からの連絡は、サポートサービスのチャットで届いていたのですが、これに気がつくのにかなり時間がかかりました。
チャットを確認するにはログインする必要がありますが、相続人側は相続手続用にはじめてアカウントを作っただけで、普段からログインして取引をしているユーザーではありません。
チャット経由で連絡が来るという認識がないと、なかなか気がつきにくいと思います。

先方にも繰り返しの連絡など余計な手間が生じたでしょうから、先方の責任とは思いませんが、「事務連絡はチャット経由でしますので、時々確認をお願いします。」と一言ほしかった点ではあります。
分かっていれば同じ事態は避けられると思いますので、今後Binanceの相続手続をなされる方は、ご注意ください。

グローバル口座での取引(国内法人移行前の取引)は、国内法上取扱い可能でない暗号資産は相続人のアカウントに移行する際にBitcoinに変換されるよう

私自身書いていてピンとこないので、これ以上説明しづらいです。
日本国内の法令に対応していく流れによるものでしょう。

相続手続前の残高証明書の発行には未対応のよう

これは後で気付いたことですが、相続手続の案内に、残高証明書の発行に触れた部分がありませんでした。

被相続人のアカウントが凍結前で、ログインに必要な情報があれば、ログインして確認する方法があります。
ただ、凍結後やログインに必要な情報が分からない場合、取引状況が分からず困る場面があるかもしれません。

遺産分割協議や相続税の申告の要否判断で遺産の評価が問題になるケースもありますし、相続放棄も視野に相続調査をする場面もあるかもしれません。
被相続人が信用取引をしている可能性もあるかもしれませんね。

ちなみに、国内大手の暗号資産交換業者の相続手続の案内を見ると、おおむね銀行や証券会社の相続手続に準じる形のようです。

・FAQ 相続(bitFlyerのWebサイト)
https://bitflyer.com/ja-jp/faq/inheritance

・相続手続きについて教えてください(CoincheckのWebサイト)
https://faq.coincheck.com/s/article/60300?language=ja

今後同様の相続手続に関わる方へのフィードバックとなりましたら幸いです。
なお、Binance側の対応も、まだ日本法対応の過渡期とも見え、今後変わっていく可能性もありますので、ご注意ください。

弁護士 圷悠樹