中小企業の事業再生等に関するガイドラインの紹介
「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」について、別記事(「廃業時の保証債務の解決-廃業時における『経営者保証ガイドライン』の基本的考え方」の紹介-」)で少し触れました。
改めて、「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」を紹介します(以下「本ガイドライン」と略記します)。
全体ではかなり幅広くなりますので、主に連帯保証の解決に関わる部分を中心に取り上げます。
・「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」とは
https://www.zenginkyo.or.jp/adr/sme/sme-guideline/
本ガイドラインも、経営者保証ガイドラインと同様、いわゆるソフト・ローの一種といえるでしょう。
法的拘束力はないものの、民間の金融機関・商工団体・学識経験者・法律実務家のコンセンサスと金融庁・中小企業庁の関与を得たとりきめです。
関係者(特に金融機関)の遵守が期待され、それによる効果、具体的には
準則型私的整理手続による金融調整を通じて、中小企業の再生または廃業を支援すること
が意図されています。
- 特徴1:平時における中小企業と金融機関の関係性の構築の重要性を強調していること
- 特徴2:再生型と廃業型の2種類の類型の私的整理手続を用意していること
どちらも重要ですが、本記事では、連帯保証の解決、という観点から紹介していきます。
特徴1:平時における中小企業と金融機関の関係性の構築の重要性を強調していること
- 収益力の向上と財務基盤の強化
- 適時適切な情報開示等による経営の透明性確保
- 法人と経営者の資産等の分別管理
- 予防的対応(金融機関や社外の実務専門家との適時のコミュニケーション、早期の経営改善計画の策定・実行等)
- 実務専門家の活用
- 経営課題の把握・分析等
- 最適なソリューションの提案
- 中小企業者に対する誠実な対応(中小企業から情報開示を受けた場合、そのこと自体や内容だけをもって中小企業に不利な対応をしないこと等
- 予兆管理
- 平時に金融機関との関係構築を目指していくと、自然と経営者保証の解消に近付く
- 平時に経営者保証の解消を目指していくと、自然と金融機関との関係構築に近付く
具体的に何をすべきか、というのは、各中小企業の状況や金融機関側の方針にもよります。
まずは、金融機関とのコミュニケーションで、必要な改善点の意見を聞いてみてはいかがでしょうか。
状況により、商工団体や関連士業の認定経営革新等支援機関の助言・支援を受けること、なども考えられます。
特徴2:再生型と廃業型の2種類の類型の私的整理手続を用意していること
こちらはいわゆる「有事」、つまり金融調整が必要な段階のことです。
中小企業が、「外部専門家」と「第三者支援専門家」の支援のもとで金融機関との調整を行い、弁済計画を提出して全対象金融機関の同意を得ることで、債務の再編が成立し、事業再生または廃業を進めることができます。
手続の構造としては、中小企業活性化協議会(旧:中小企業再生支援協議会)が関与する金融調整(いわゆる二次支援)と類似しています。
協議会スキームでは協議会が担う金融調整の役割を、本ガイドラインでは外部専門家と第三者支援専門家が担う、ということができるでしょう。
【手続の流れ】
- 外部専門家に相談、手続利用の検討
- 第三者支援専門家の選任を検討・打診(廃業型の場合、6~7の時点でもよい。いずれにしても、正式選任には主要債権者全ての同意が必要
- 主要債権者に申し出をして、手続への同意を得る(※主要債権者:債権額のシェアで上位50%以上を占める債権者グループ)
- 支援開始の可否の判断を受ける(判断者は、再生型の場合は第三者支援専門家、廃業型の場合は外部専門家)
- 一時停止の要請
- 事業再生計画案(再生型)/弁済計画(廃業型)の作成
- 第三者支援専門家の調査報告書作成
- 債権者会議
- 全対象債権者の同意を得られれば、事業再生計画/弁済計画が成立
- 成立後の状況のモニタリング
「外部専門家」「第三者支援専門家」の位置づけは、後述します。
【本ガイドラインの意義】
法的整理は、取引先債権者、水道光熱費等のライフライン系債権者、租税公課など、各種の債権者をすべて含める必要があります。
したがって手続のことが広く知られます。
本ガイドラインのような私的整理手続は、基本的には金融債権者(銀行、その保証会社など)が対象で、リース債権者も状況により含められる可能性がありますが、一般の商取引債権者は基本的に対象外です。
そのため、「取引先に迷惑をかけたくない」といった心情をお持ちでも、私的整理であれば踏み切りやすくなります。
次に、連帯保証の解決の視点から大きいのが、廃業型の場合に、主債務者と保証人の債務整理を、本ガイドラインの手続によりまとめて行うことができることです。
廃業型かつ一体型の準則型私的整理手続の創設、ということで、これは従前非常に手薄だった領域です。
一応、日弁連が提唱した特定調停スキームというものが、これに近い位置づけでしたが、金融機関側の認知度や対応方針、裁判所側の対応態勢などの問題がありました。
廃業型かつ一体型の手続で、主債務者と保証人の債務整理を行う手続として、本ガイドラインが主流になることが期待されます。
再生型の場合、もともと中小企業活性化協議会スキームがかなり定着しており、今後は使い分けになると思われます。
本ガイドラインは、特殊な形態の法人(学校法人、社会福祉法人)も利用できること、ノンバンク・貸金業者も対象債権者に含むこと、などの独自性があります。
活性化協議会スキームは、金融機関側の認知度が高く、協議会も各都道府県にあり対応態勢もあります。また、本格的な債務再編前の支援メニューが豊富です(リスケジュール計画の策定支援など)。
我々弁護士としても、中小企業の方から相談を受けて、法的手続は希望なさらない場合、活性化協議会を紹介するケースがあります。
本ガイドラインは比較的新しく、第三者支援専門家候補者リストの候補者が、現状では二大都市圏(東京・大阪)にほぼ限られています(愛知県・福岡県にもいない状況)。
地方では今のところ中小企業活性化協議会スキームの方が金融機関側の理解を得やすいかもしれません。
なお地方でも本ガイドラインを利用できないわけではなく、「第三者支援専門家補佐人」としてその地域の弁護士を加える、という方法がある、とされています。
第三者支援専門家が遠方の案件に携わる場合、当該地域の専門家を選任する等の対応も考えられます。
「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」Q&A Q33-2
第三者支援専門家を地方でも増やしていけるかどうかが、今後の普及の鍵になりそうです。
補足:「外部専門家」と「第三者支援専門家」はどういう位置づけか
本ガイドラインによる私的整理手続には、「外部専門家」と「第三者支援専門家」の2種類の専門家が出てきます。
それぞれがどういう位置づけなのか、整理しておきます。
「外部専門家」は、中小企業側の代理人という理解でほぼ問題ありません。
弁護士に相談し、本ガイドラインの手続をとる場合、その弁護士に外部専門家に就任してもらう、ということが多いでしょう。
「第三者支援専門家」は、中小企業・金融機関の双方から独立した、公平な立場から、手続開始の可否や、再生計画・弁済計画の内容に対して判断をします。
こちらは候補者のリストがあり、原則としてリストの中から専任する必要があります。
中小企業・金融機関の双方と利害関係がないことが必要です。また選任には主要債権者全ての同意が必要です。
- 支援専門家:保証人側の代理人的立場。
- 外部専門家:中小企業活性化協議会の支援チームのアドバイザー。中小企業・金融機関の双方から独立した立場。
我々弁護士にとっても紛らわしいところなので、備忘として。
弁護士 圷悠樹(神奈川県弁護士会所属)